医療費が高額になったときに利用できる制度として、高額療養費制度があります。高額療養費制度は事後に患者自身が保険者に申請することで償還払いを受けられる制度です。
しかし薬局での窓口負担額が軽減される場合がありますので、薬局職員が高額療養費制度を正しく理解しておかないと窓口負担額の計算を間違えてしまうことになりかねません。
ここでは高額療養費制度について解説します。薬局職員が知っておくべきことに絞って解説していきます。
高額療養費制度とは
高額療養費制度とは、同一月の医療費自己負担額が限度額を超えた場合に、超えた分が後から払い戻される制度です。自己負担限度額は年齢、収入によって数段階に分かれています。
自己負担限度額 70歳未満の場合
自己負担限度額について細かく見ていきましょう。
適用区分 | 自己負担限度額(世帯ごと) | ||
---|---|---|---|
外来・入院 | 多数回該当時 | ||
ア | 年収約1,160万円〜 | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
イ | 年収約770〜 約1,160万円 |
167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
ウ | 年収約370〜 約770万円 |
80,100円+(総医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
エ | 〜年収約370万円 | 57,600円 | 44,400円 |
オ | 住民税非課税者 | 35,400円 | 24,600円 |
自己負担限度額 70歳以上の場合
70歳以上の自己負担限度額については、見直しがされているところです。段階的に自己負担限度額の引き上げが行われます。引き上げのタイミングは平成29年8月、平成30年8月の2回です。
ですから70歳以上の自己負担限度額については、①〜平成29年7月、②平成29年8月〜平成30年7月、③平成30年8月〜の3つの違いを知っておくことが大切です。
①〜平成29年7月
適用区分 | 自己負担限度額 | |||
---|---|---|---|---|
外来
(個人ごと) |
外来・入院
(世帯ごと) |
多数回該当 (世帯ごと) |
||
現役 並み |
年収約370万円〜 | 44,400円 | 80,100円+(医療費 -267,000円)×1% |
44,400円 |
一般 | 年収156万円〜 約370万円 |
12,000円 | 44,400円 | 設定なし |
低所 得者 |
Ⅱ | 8,000円 | 24,600円 | 設定なし |
Ⅰ | 15,000円 | 設定なし |
70歳以上の場合、平成29年7月までの制度では自己負担限度額は収入3段階に分かれています。70歳未満では自己負担限度額は世帯ごとのみの設定でしたが、70歳以上では外来に限って個人ごとの設定もあります。
②平成29年8月〜平成30年7月
適用区分 | 自己負担限度額 | |||
---|---|---|---|---|
外来
(個人ごと) |
外来・入院
(世帯ごと) |
多数回該当 (世帯ごと) |
||
現役 並み |
年収約370万円〜 | 57,600円 | 80,100円+(医療費 -267,000円)×1% |
44,400円 |
一般 | 年収156万円〜 約370万円 |
14,000円 年間上限144,000円 |
57,600円 | 44,400円 |
低所 得者 |
Ⅱ | 8,000円 | 24,600円 | 設定なし |
Ⅰ | 15,000円 | 設定なし |
平成29年7月までの枠組みは変わらず、自己負担限度額が引き上げられています。一般区分の自己負担限度額(世帯ごと)については、多数回該当が設定されています。
③平成30年8月〜
適用区分 | 自己負担限度額 | |||
---|---|---|---|---|
外来
(個人ごと) |
外来・入院
(世帯ごと) |
多数回該当 (世帯ごと) |
||
現役 並み |
年収約1,160万円〜 | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% | 140,100円 | |
年収約770万円〜 約1,160万円 |
167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | 93,000円 | ||
年収約370万円〜 約770万円 |
80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 | ||
一般 | 年収156万円〜 約370万円 |
18,000円 年間上限144,000円 |
57,600円 | 44,400円 |
低所 得者 |
Ⅱ | 8,000円 | 24,600円 | 設定なし |
Ⅰ | 15,000円 | 設定なし |
現役並み所得区分については細分化した上で自己負担限度額が引き上げられます。 一般区分については外来の自己負担上限額が引き上げられます。
平成30年8月の制度変更によって、年齢による自己負担限度額の格差がほぼなくなり、単に収入の多寡によって区別されるようになります。
多数回該当とは
同じ世帯(同じ保険者に属する)で当月を含む、直近12か月間に既に3回以上高額療養費が支給されている場合、その月以降の自己負担限度額がさらに引き下がります。引き下げられた自己負担限度額が適用されることを多数回該当といい、4回目から多数回該当が適用になります。
教科書的には上の説明で正しいのですが、以下のように理解した方が分かりやすいです。
同じ世帯(同じ保険者に属する)で当月を含まない、直近11か月間に既に3回以上高額療養費が支給されている場合、その月の自己負担限度額がさらに引き下がります。引き下げられた自己負担限度額が適用されることを多数回該当といいます。
例をあげます。
今日が平成29年7月とします。当月を含まない直近11ヶ月間(つまり、平成28年8月〜平成29年6月)に高額療養費が支給された(つまり、医療費の自己負担が自己負担限度額に達した)月が3つ以上ある場合、平成29年7月の自己負担限度額が引き下げられます。
高額療養費の現物給付化
高額療養費制度は事後に患者自身が保険者に申請することで償還払いを受けられる制度ですが、医療機関の窓口での支払いを自己負担限度額までにとどめることができる仕組みも用意されています。この仕組みを「高額療養費の現物給付化」といいます。
高額療養費の現物給付化を受けるには、患者自身が事前に保険者に申請し、限度額適用認定証等を交付してもらう必要があります。限度額適用認定証等を医療機関に提示することで、医療機関の窓口での支払いを自己負担限度額までにとどめることができます。
限度額適用認定証等
高額療養費の現物給付化を受けるには、限度額適用認定証等を交付してもらう必要があります。しかし、70歳以上の患者のうち、非課税世帯等でない人の場合は限度額適用認定証等を交付してもらう必要がありません。
なぜなら70歳以上75歳未満の患者は「高齢者受給者証」、75歳以上の患者は「後期高齢者医療被保険者証」を持っており、それらを確認することで所得区分が分かるため、自己負担限度額を計算できるからです。(高齢者受給者証は通常、保険証と一緒に持っています。後期高齢者医療被保険者証は保険証のことです。)
70歳以上の非課税世帯等の人は、限度額適用認定証等として「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付してもらい、医療機関に提示する必要があります。「限度額適用・標準負担額減額認定証」の提示がない場合、医療機関にでの支払いは「一般区分」の自己負担限度額までになります。
70歳未満の人は全員、「限度額適用認定証」または「限度額適用・標準負担額減額認定証」が必要です。
表にまとめます。
年齢 | 所得 | ||
---|---|---|---|
現役並み | 一般 | 低所得 | |
70歳未満 | 限度額適用認定証 | 限度額適用認定証 | 限度額適用・標準負担額減額認定証 |
70歳~74歳 | 高齢受給者証 | 高齢受給者証 | 限度額適用・標準負担額減額認定証 |
75歳以上 | 後期高齢者医療被保険者証 | 後期高齢者医療被保険者証 | 限度額適用・標準負担額減額認定証 |
一つの薬局で複数の医療機関からの処方せんがある場合
高額療養費の現物給付化を行うことで、薬局での窓口負担が自己負担限度額までにとどめることができます。では、患者が一つの薬局に複数の医療機関からの処方せんを持ち込んだ場合、限度額の計算はどうなるのでしょうか?
この場合、医療機関ごとに自己負担限度額まで支払ってもらう必要があります。「保険調剤Q&A」から引用します。
高額療養費の現物給付化の仕組みは、施設単位で自己負担限度額を管理せざるを得ないものであるため、例えば保険薬局での限度額の管理にあたっては、保険医療機関や他の保険薬局における支払い額を含めることはできません(後日、患者が健保組合などへの支給申請の手続きを行う必要があります)。また、複数の保険医療機関から処方せんが交付されている場合には、保険医療機関ごとに限度額を管理する必要がありますので注意してください。