サラゾスルファピリジンはとてもややこしい薬です。
サラゾスルファピリジン製剤には素錠と腸溶錠がありますが、素錠は潰瘍性大腸炎治療薬であり、腸溶錠は抗リウマチ薬です。保険適応上、素錠をリウマチに使ったり、腸溶錠を潰瘍性大腸炎に使ったりすることはできません。
なぜこんなことになっているのか、不思議に思ったことがある方も多いのではないでしょうか?
この記事ではサラゾスルファピリジンについて解説します。特徴や開発の経緯を理解することで、サラゾスルファピリジンについて頭の中で整理できると思います。
サラゾスルファピリジンの開発の経緯
サラゾスルファピリジンは、抗炎症剤である5-アミノサリチル酸と抗菌剤であるスルファピリジンを結合させたものです。
サラゾスルファピリジンは1938年に関節リウマチの治療薬として開発されましたが、当時は感染症が関節リウマチの原因と考えられていたため、抗炎症剤と抗菌剤を結合することで合成されたのです。
その後サラゾスルファピリジンは潰瘍性大腸炎にも効果があることが明らかになり、抗リウマチ薬および潰瘍性大腸炎治療薬としての開発が進められましたが、抗リウマチ薬としての効果に否定的な結果が報告されるなどしたため、抗リウマチ薬としての開発は中断されました。
潰瘍性大腸炎治療薬としての開発は続けられ、日本においては1969年に潰瘍性大腸炎治療薬として承認されました。
1970年代以降、関節リウマチに対するサラゾスルファピリジンの有用性を示す報告が続き、海外において抗リウマチ薬として再評価されるようになりました。
このような海外情報をもとに、日本ではサラゾスルファピリジンを抗リウマチ薬として適応外使用するようになり、この状態が長年続きましたが、1995年にようやくサラゾスルファピリジンが抗リウマチ薬として承認されました。
潰瘍性大腸炎治療薬としてのサラゾスルファピリジン
サラゾスルファピリジンはサラゾピリンという商品名で潰瘍性大腸炎治療薬として使用されています。
上で述べたとおり、サラゾスルファピリジンは、抗炎症剤である5-アミノサリチル酸と抗菌剤であるスルファピリジンを結合させたものです。経口投与されたサラゾスルファピリジンの約3分の1は小腸でそのままの形で吸収されますが、大部分は大腸に運ばれ、そこで腸内細菌の作用をうけて5-アミノサリチル酸とスルファピリジンに分解、吸収されます。その治療活性部分は 5-アミノサリチル酸であることが明らかになっています。
ちなみに、5-アミノサリチル酸は別名をメサラジンとも言います。メサラジンといえば、ペンタサ、アサコール、リアルダの薬効成分です。5-アミノサリチル酸を薬効成分として持つ製剤を総称して5-ASA製剤(ごあさせいざい、と読みます)と呼びます。
サラゾスルファピリジンは大腸で5-アミノサリチル酸とスルファピリジンに分解されますが、その副作用のほとんどはスルファピリジンによるものです。副作用を軽減する目的で、スルファピリジンを含まない5-アミノサリチル酸単体の製剤が開発されており、日本では1996年にペンタサが承認されました。
5-アミノサリチル酸をそのまま経口投与すると上部消化管で速やかに吸収されてしまうため、大腸に効率的に送達することを目的として時間依存型放出調節製剤(ペンタサ)、pH 依存型放出調節製剤(アサコール)、マルチマトリックス構造を有した DDS 製剤(リアルダ)が開発されてきました。
現在では、副作用軽減のためにサラゾピリンではなく、ペンタサ、アサコール、リアルダが用いられることが多いです。しかし、サラゾピリンの方が有効性が高い病態があることも知られており、病状に応じてサラゾピリンも用いられています。
抗リウマチ薬としてのサラゾスルファピリジン
サラゾスルファピリジンはアザルフィジンという商品名で抗リウマチ薬として使用されています。
上で述べたとおり、経口投与されたサラゾスルファピリジンの約3分の1は小腸でそのままの形で吸収され、残りは大腸に運ばれて5-アミノサリチル酸とスルファピリジンに分解、吸収されます。抗リウマチ薬としての効果を発揮するのは小腸で吸収された未変化体のサラゾスルファピリジンです。
作用機序は明確ではありませんが、炎症性サイトカインの産生抑制、樹状細胞の活性化抑制、アデノシンを介する抗炎症作用、破骨細胞の分化抑制作用、軟骨破壊に関与するMMP (matrix metalloproteinase)の産生抑制作用などが認められています。
また、アザルフィジンは胃での副作用を防止するため腸溶錠となっています。
サラゾスルファピリジンの副作用
アザルフィジンは腸溶錠ですので、サラゾピリンに比べて胃障害の副作用が軽減されています。胃障害以外の副作用については、当然同程度です。
血液障害、肝障害、腎障害が報告されていることから、必ず血液検査を行う必要があります。以下にアザルフィジンEN錠の添付文書を引用します(サラゾピリン錠の添付文書にも同様の記載あり)。
本剤投与開始前には、必ず血液学的検査(白血球分画を含む血液像)、肝機能検査及び腎機能検査を実施すること。投与中は臨床症状を十分観察するとともに、定期的に(投与開始後最初の3ヵ月間は2週間に1回、次の3ヵ月間は4週間に1回、その後は3ヵ月ごとに1回)、血液学的検査及び肝機能検査を行うこと。また、腎機能検査についても定期的に行うこと。
また、サラゾスルファピリジン自体が黄色の染色物質であるため、服用により、皮膚、爪、汗、尿、涙、精液などが黄色くなることがありますが、とくに心配ありません。
調剤過誤に注意が必要
冒頭で述べたとおり、サラゾスルファピリジン製剤には素錠と腸溶錠があるため注意が必要です。特に一般名が酷似しているので、調剤過誤を起こしやすいということを認識しておくことが大切です。
製剤名 | 一般名 | 適応 | 薬価 |
---|---|---|---|
アザルフィジンEN錠500mg | サラゾスルファピリジン腸溶錠500mg | 関節リウマチ | 68.4 |
アザルフィジンEN錠250mg | サラゾスルファピリジン腸溶錠250mg | 関節リウマチ | 40.4 |
サラゾピリン錠500mg | サラゾスルファピリジン錠500mg | 潰瘍性大腸炎 | 23.1 |
アザルフィジンEN錠500mgとサラゾピリン錠500mgの薬価が異なるというのもひとつのポイントです。患者の経済的負担を減らすために、あえて安価なサラゾピリン錠500mg錠を関節リウマチ治療目的で処方する場合があります。これはもちろん適応外使用なので、疑義照会しなければなりません。
下記処方例の処方せんを受けたときには、必ず疑義照会をしましょう。
診療科:整形外科
[般]サラゾスルファピリジン錠500mg 2錠
1日2回 30日分
どちらだとしても必ず疑義照会が必要です。疑義照会せずにアザルフィジンEN錠500mgもしくはサラゾピリン錠500mgを調剤してはいけません。
まとめ
この記事ではサラゾスルファピリジンについて解説しました。サラゾスルファピリジンが潰瘍性大腸炎治療薬なのか抗リウマチ薬なのかわからなくなるというのは誰もが一度は通る道だと思います。
開発の経緯から整理して覚えれば混乱することはなくなりますので、この記事をぜひ役立ててください。
また、調剤過誤には十分注意しましょう。