薬剤師による調剤薬局の仕事解説

事務仕事から人材育成まで、調剤薬局の仕事すべてを管理薬剤師が解説します。

かかりつけ薬剤師を推進する薬局はブラックなのか

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2016年4月からかかりつけ薬剤師制度が始まりました。私は約170人の方にかかりつけ薬剤師として指名をいただき、かかりつけ薬剤師指導料を月約100回算定しています。

しかし多くの薬局勤務薬剤師は、かかりつけ薬剤師制度にネガティブな印象を持っており、かかりつけ薬剤師指導料の算定に積極的でないという話を聞きます。かかりつけ薬剤師制度を推進する薬局の薬剤師は不幸だという意見まであります。

果たしてかかりつけ薬剤師制度を推進する薬局はブラックなのでしょうか。かかりつけ薬剤師制度を推進して潤うのは薬局経営者の懐だけで、薬剤師や患者には何のメリットもないのでしょうか。



かかりつけ薬剤師制度の背景

かかりつけ薬剤師制度を理解するために、まずはその背景から解説します。

かかりつけ薬剤師制度が設けられた背景には、薬局がその機能を十分に果たしていないのではないかという問題提起があります。平成27年10月に厚生労働省が発表した「患者のための薬局ビジョン」には以下のように書かれています。

  • 医療機関の周りにいわゆる門前薬局が乱立し、患者の服薬情報の一元的な把握などの機能が必ずしも発揮できていないなど、患者本位の医薬分業になっていない。
  • 医薬分業を推進するため、患者の負担が大きくなっている一方で、負担の増加に見合うサービスの向上や分業の効果などを実感できていない。

この問題を解決するために、厚生労働省は次の方針を定めました。

  • 地域包括ケアの推進において、薬局及び薬剤師が薬学的管理・指導を適切に実施する環境を整える観点から、かかりつけ薬局の要件を具体的に明確化するなど、薬局全体の改革の方向性について検討すること。
  • 薬局の機能やサービスに応じた診療報酬となるように、調剤報酬の在り方について抜本的な見直しを行い、サービスの質の向上と保険財政の健全化に資する仕組みに改めること。門前薬局の評価を見直すとともに、患者にとってメリットが実感できる薬局の機能は評価し、実際に提供したサービスの内容に応じて報酬を支払う仕組みに改めるなど、努力した薬局・薬剤師が評価されるようにすること。

この方針の一環として、かかりつけ薬剤師制度が始まったのです。そしてかかりつけ薬剤師制度を含む、患者本位の医薬分業により以下のことが期待されています。

<患者本位の医薬分業で実現できること>

  • 服用歴や現在服用中の全ての薬剤に関する情報等を一元的・継続的に把握し、次のような処方内容のチェックを受けられる
    • 複数診療科を受診した場合でも、多剤・重複投薬等や相互作用が防止される
    • 薬の副作用や期待される効果の継続的な確認を受けられる
  • 在宅で療養する患者も、行き届いた薬学的管理が受けられる
  • 過去の服薬情報等が分かる薬剤師が相談に乗ってくれる。また、薬について不安なことが出てきた場合には、いつでも電話等で相談できる
  • かかりつけ薬剤師からの丁寧な説明により、薬への理解が深まり、飲み忘れ、飲み残しが防止される。これにより、残薬が解消される など

これがかかりつけ薬剤師制度の背景です。


かかりつけ薬剤師制度とは

では次に、かかりつけ薬剤師制度とは何か解説します。かかりつけ薬剤師制度とは、簡単に言うと「薬剤師の指名制度」です。

経験豊富な薬剤師が、患者から同意を得た上でかかりつけ薬剤師となり、服薬指導を行うとかかりつけ薬剤師指導料を算定できます。かかりつけ薬剤師指導料(70点)は通常の服薬指導で算定する薬剤服用歴管理指導料(38点 or 50点)より高い点数がつけられています。従って、かかりつけ薬剤師を指名した患者は通常より高い料金(3割負担で60〜100円の追加料金)を支払うことになります。

かかりつけ薬剤師指導料の算定要件は以下の通りです。

[算定要件]
① 患者が選択した保険薬剤師が患者の同意を得た上で、同意を得た後の次の来局時以降に算定できる。
② 同意については、当該患者の署名付きの同意書を作成した上で保管し、その旨を薬剤服用歴に記載する。
③ 患者1人に対して、1人の保険薬剤師のみがかかりつけ薬剤師指導料を算定できる。かかりつけ薬剤師以外の保険薬剤師が指導等を行った場合は当該指導料を算定できない(要件を満たせば、薬剤服用歴管理指導料は算定できる。)。
④ 手帳等にかかりつけ薬剤師の氏名、勤務先の保険薬局の名称及び連絡先を記載する。
⑤ 担当患者に対して以下の業務を実施すること。
ア 薬剤服用歴管理指導料に係る業務
イ 患者が受診している全ての保険医療機関、服用薬等の情報を把握
ウ 担当患者から24時間相談に応じる体制をとり、患者に開局時間外の連絡先を伝え、勤務表を交付(やむを得ない場合は当該薬局の別の薬剤師でも可)
エ 調剤後も患者の服薬状況、指導等の内容を処方医に情報提供し、必要に応じて処方提案
オ 必要に応じて患家を訪問して服用薬の整理等を実施

かかりつけ薬剤師が担当患者に行う業務は⑤ア、イ、ウ、エ、オの5項目ですが、ウ以外の4項目は薬剤服用歴管理指導料を算定している患者にも行うべき業務であり、ウの24時間相談体制については基準調剤加算を算定している薬局ではすべての患者に提供しています。

つまり、かかりつけ薬剤師の担当患者だからといって特別なサービスが提供されるわけではなく、一見、担当患者に何のメリットもないように感じられます。薬剤師がかかりつけ薬剤師制度にネガティブな印象を持つのは、これが大きな原因でしょう。本当に担当患者にメリットがないかについては、後述します。

また、すべての薬剤師がかかりつけ薬剤師になれるわけではありません。かかりつけ薬剤師の要件については以下の記事に詳しく書いてありますのでご覧ください。

かかりつけ薬剤師の担当患者のメリット

冒頭で述べたように、かかりつけ薬剤師指導料の算定に積極的でない薬剤師は相当数いるようです。積極的でない理由は様々ですが、分類すると概ね次の2つに要約できるだろうと思います。

  • 患者にメリットがないのに、かかりつけ薬剤師指導料を算定することに抵抗を感じる。
  • 患者からかかりつけ薬剤師の同意を得る活動をしたくない。

後者は論外として、前者について、本当に患者にメリットがないのか見てみましょう。

日本調剤の調査によると、かかりつけ薬剤師を持っている患者に「かかりつけ薬剤師を持って良かったと感じることはありますか?」という質問をしたところ「はい」と答えた患者は全体の74%でした。「はい」と答えた患者に続けて「具体的にどのようなことが良かったですか?(複数選択可)」と選択肢を示して質問すると最も多かった回答は「毎回同じ薬剤師で安心できる」。ついで「話しやすい」「服薬中の薬をすべて把握してくれる」の順で回答数が多いという結果でした。

この結果から、かかりつけ薬剤師の担当患者にメリットがないというのは勝手な思い込みであって、「毎回同じ薬剤師が服薬指導を行う」というかかりつけ薬剤師制度特有のサービスが担当患者に安心を与えており、担当患者はそれをメリットと感じていることがわかります。

算定要件を満たしており、担当患者はメリットを感じているのですから、堂々と胸を張ってかかりつけ薬剤師指導料を算定してよいと私は考えます。

かかりつけ薬剤師自身のメリット

かかりつけ薬剤師の担当患者にメリットがあることは分かりましたが、かかりつけ薬剤師制度に取り組むことでかかりつけ薬剤師自身にメリットはあるのでしょうか。考えられるメリットを列挙してみます。

  • 給与など待遇面の向上
  • 担当患者を持つことで責任が生まれ、やりがいを感じられる
  • 担当患者と信頼関係を築きやすく、服薬指導時が充実する。充実した服薬指導を行えるようになる。
  • 服薬指導が充実するので、薬歴が充実する。充実した薬歴を書けるようになる。

ざっと思いつくだけでもこれくらいあります。
これらのメリットから分かるように、かかりつけ薬剤師制度への取り組みは、薬剤師が薬剤師本来の職能を発揮するための第一歩なのです。薬局薬剤師に求められる仕事は今後「対物」から「対人」へ移行していきますから、かかりつけ薬剤師業務に取り組むか否かが、国や患者が求める薬剤師か否かの分水嶺となることは間違いないでしょう。算定しないかぎりは、国は「仕事をした」と認めてくれません。

かかりつけ薬剤師制度は担当患者、かかりつけ薬剤師の双方にメリットがあることを示しましたが、それでも「納得できない。メリットなどない」と感じる薬局薬剤師の方がいらっしゃれば、そういう方にこそ是非かかりつけ薬剤師制度に取り組んでほしいと思います。月100回のかかりつけ薬剤師指導料算定を6ヶ月継続したとき、その意見は180度変わっていると私は確信しています。それでも「やはりメリットなし」と感じるのであれば、かかりつけ薬剤師指導料算定をやめて薬剤服用歴管理指導料を算定すれば良いと思います。その方が、端からかかりつけ薬剤師制度に取り組まず「メリットなし」と主張するよりはよほど説得力があると感じます。

かかりつけ薬剤師包括管理料

かかりつけ薬剤師包括管理料について説明しておきます。ここまで「かかりつけ薬剤師制度では、かかりつけ薬剤師指導料を算定する」と説明してきましたが、実は特定の患者においてはかかりつけ薬剤師指導料の代わりにかかりつけ薬剤師包括管理料を算定することも可能です。以下を参照してください。

地域包括診療料、地域包括診療加算等が算定される患者に対してかかりつけ薬剤師が業務を行う場合は、調剤料、薬学管理料等に係る業務を包括的な点数で評価することも可能とする。
かかりつけ薬剤師包括管理料 270点(1回につき)
[包括範囲]
下記以外は包括とする。
・時間外等加算、夜間・休日等加算
・在宅患者調剤加算、在宅患者訪問薬剤管理指導料(当該患者の薬学的管理指導計画に係る疾病と別の疾病又は負傷に係る臨時の投薬が行われた場合に限る。)、在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料、在宅患者緊急時等共同指導料
・退院時共同指導料
・薬剤料及び特定保険医療材料料
[算定要件]
① 対象患者は、地域包括診療加算若しくは認知症地域包括診療加算又は地域包括診療料若しくは認知症地域包括診療料を算定している患者とする。
② かかりつけ薬剤師指導料の算定要件を満たしていること。
③ 調剤の都度患者の服薬状況、指導等の内容を処方医に情報提供し、必要に応じて処方提案すること。(情報提供の方法については、保険医と合意が得られている場合はそれによるものとする。)
[施設基準]
かかりつけ薬剤師指導料と同じ。

かかりつけ薬剤師包括管理料の対象患者

かかりつけ薬剤師包括管理料とかかりつけ薬剤師指導料の算定要件の違いは1点のみです。それは対象患者です。かかりつけ薬剤師指導料は対象患者の条件はありませんが、かかりつけ薬剤師包括管理料の対象患者は地域包括診療加算、認知症地域包括診療加算、地域包括診療料、認知症地域包括診療科(以下、地域包括診療加算等)のいずれかを算定している患者のみです。

地域包括診療加算等は医科の点数であり、薬局で算定する点数ではありません。したがって、地域包括診療加算等を算定している患者かどうかは処方せん発行元の医療機関に教えてもらうしかありません。今のところ、地域包括診療加算等を算定している患者であるか否かの確認方法は以下のとおりとなっています。

医療機関は当該患者が受診している医療機関のリスト及び当該患者が当該診療料(加算)を算定している旨を、処方せんに添付して患者に渡すことにより、当該薬局に対して情報提供を行う。

つまり、地域包括診療加算等を算定している患者である旨が記載された紙を、患者が処方せんと一緒に薬局に持ってくるということです。処方せんの備考欄にでもその旨記載してくれた方が薬局としては助かるのですが、、、。

かかりつけ薬剤師包括管理料の点数

かかりつけ薬剤師包括管理料は270点です。ただし、これを算定すると薬剤服用歴管理指導料、かかりつけ薬剤師指導料を併算定できないのはもちろんのこと、調剤基本料、基準調剤加算、後発医薬品調剤体制加算、調剤料、嚥下困難者用製剤加算、一包化加算、無菌製剤処理加算、麻薬等加算、自家製剤加算、計量混合調剤加算、麻薬管理指導加算、重複投薬・相互作用等防止加算、特定薬剤管理指導加算、乳幼児服薬指導加算についても併算定できません。

調剤基本料、調剤料、各種加算まで併算定できないとなると、かかりつけ薬剤師包括管理料ではなく、かかりつけ薬剤師指導料を算定した方が薬局としては高い報酬を得られるケースがかなり多いのではないかと思います。

まとめ

かかりつけ薬剤師制度を推進する薬局はブラックか?という問いに対しては、ブラックではないと答えるのが妥当と言えます。ただしやりすぎるとブラックになることも確かです。経験上、かかりつけ薬剤師指導料の算定は一人あたり月200回くらいが限界です。それ以上になると、かかりつけ薬剤師の服薬指導が業務の律速となり待ち時間が急激に増加します。調剤基本料の特例除外を狙う薬局以外で一人あたり月200回以上の算定を求められる場合は、間違いなくブラックと言えます。かかりつけ薬剤師制度の取り組むときは、一人あたり月100〜150回の算定を目標にすると、患者、薬剤師、薬局経営者の三者すべてにとって最もメリットのあるものとなるでしょう。



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