薬剤師による調剤薬局の仕事解説

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CYP(シトクロムP450)の阻害様式の違いについて解説

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CYPが関与する薬物相互作用には、CYP阻害によるものとCYP誘導によるものがありますが、その大半はCYP阻害によるものです。

したがって、まずはCYP阻害について知ることが、薬物相互作用について理解を深めることの近道になります。

ここではCYPの阻害様式の違いについて解説します。CYP阻害について整理して理解することで、業務に活かしやすくなります。

この記事はこちらこちらを参照して作成しました。



CYPによる薬物代謝

この記事を読む前に、ぜひCYPによる薬物代謝についての記事を読んでください。CYPとは何か、から始まり、薬剤師が知っておくべきCYP5つについて大まかに解説しています。

CYPの阻害様式は三種類

CYPの阻害様式は競合的阻害、非特異的阻害、不可逆的阻害の三種類があります。ひとつずつ詳しく見ていきましょう。

競合的阻害

併用された薬物が同じCYPで代謝される場合、代謝反応の競合が起こり、それぞれの反応速度が低下します。

実際には基質薬剤によってCYPへの親和性は様々であり、親和性の低い薬物の代謝が阻害されその血中濃度は上昇する一方、親和性の高い薬物の血中濃度は変化しないことが多いです。

例えば、オメプラゾール(オメプラール、オメプラゾン)とジアゼパム(セルシン、ホリゾン)はいずれもCYP2C19で代謝される薬物であり、これらの併用で競合的阻害が発生し、ジアゼパムの血中濃度が高まったという報告があります。

非特異的阻害

CYPの活性中心にはヘム鉄が存在します。そしてCYPによる酸化反応には、そのヘム鉄への酸素分子の配位結合が必須です。非特異的阻害を示す薬物は窒素原子を含む複素環を持ち、それがCYPの活性中心に存在するヘム鉄に配位結合することで非特異的に複数のCYP分子種を可逆的に阻害します。

非特異的阻害を示す代表的な薬物はシメチジン(タガメット)とアゾール系抗真菌薬(イトラコナゾール(イトリゾール)、フルコナゾール(ジフルカン)など)です。

阻害様式から非特異的に複数のCYP分子種が阻害されると推測されますが、実際には、シメチジンはCYP2D6を、アゾール系抗真菌薬CYP3A4を強く阻害します。このような選択性は、薬物の脂溶性や分子サイズに起因すると考えられます。

シメチジンより後に開発されたファモチジン(ガスター)やラニチジン(ザンタック)では、シメチジンのイミダゾール環がそれぞれチアゾール環やフラン環に置換されており、ほとんどCYPを阻害しません。

アゾール系抗真菌薬はCYPを阻害するため、併用禁忌や併用注意が多い医薬品として有名ですが、実はアゾール系抗真菌薬はそもそもCYP阻害薬だということを知っているでしょうか。アゾール系抗真菌薬は、真菌の細胞膜の主要構成脂質であるエルゴステロールの生合成酵素を阻害する薬です。エルゴステロールの生合成酵素はラノステロール 14α-脱メチル酵素という名前ですが、これは別名CYP51とも呼ばれています。

アゾール系抗真菌薬は、窒素を含む複素環を持ち、それがCYP51の活性中心に存在するヘム鉄に配位結合することでエルゴステロール合成阻害作用を発揮します。上で説明した、非特異的阻害の様式と全く同じ機序であることが分かっていただけたと思います。


不可逆的阻害

薬物の中にはCYPによる代謝を受けて高い反応性を有する代謝物へと変換されるものがあります。これら代謝物がCYPの活性中心に共有結合すると、そのCYPは不可逆的に不活性化されます。このような代謝依存的な阻害は mechanism-based inhibition(MBI)と呼ばれます。

MBIは阻害作用が不可逆的であり、阻害薬が体内から消失した後も持続的に阻害効果が認められることが特徴です。このような特徴があるため、MBIが関わる相互作用では重篤な副作用が発現することがあり注意が必要です。

MBIを引き起こす代表的な薬物は14員環のマクロライド系抗生物質(エリスロマイシン(エリスロシン)、クラリスロマイシン(クラリシッド、クラリス)など)です。14員環マクロライド系抗生物質はCYP3A4による代謝を受けた後、CYP3A4のヘム鉄に共有結合してCYP3A4を不活性化します。一方、16員環マクロライド系抗生物質(ジョサマイシンなど)はほとんど CYP3A4を阻害しません。

食品にもMBIを引き起こすものがあります。有名なのはグレープフルーツジュースです。グレープフルーツジュースに含まれるフラノクマリン類がCYP3A4を不可逆的に阻害します。

まとめ

ここではCYPの阻害様式の違いについて解説しました。阻害様式を理解することで、相互作用の予測や対処がしやすくなります。まさに薬剤師が活躍すべき分野ですので、ぜひ業務に役立てていただきたいと思います。



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