薬剤師による調剤薬局の仕事解説

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CYP(シトクロムP450)による薬物代謝と薬物相互作用について解説

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CYP(シトクロムP450)は薬物代謝に関わる酵素であり、薬物の体内動態や薬物相互作用を考える上では避けて通れないものです。

しかしながら、自分はCYPについて十分理解していると胸を張って言える薬剤師はごく少数なのではないかと予想します。なぜならば、私自身がそうであるし、私の周りの薬剤師もそうであるからです。

薬物相互作用の予測や対策は薬剤師の仕事ですから、CYPについて理解することは重要です。

この記事ではCYPについて概説します。まずはCYPについておおまかに理解し、その後詳細を学ぶのが良いでしょう。

この記事を読んだあとは、以下の記事を読むとより理解が深まると思います。



CYPとは何か

CYPは約500アミノ酸残基からなる酸化酵素です。CYPはヒトだけでなく、細菌、植物、動物ほとんどすべての生物に存在します。

薬物代謝は第Ⅰ相反応と第Ⅱ相反応に大別されますが、CYPは第Ⅰ相反応の約80%に関与していると言われています。

CYPは、ヒトにおいては約50種類の分子種が見つかっていますが、薬物代謝に関わっているのはそのうちの一部です。具体的にはCYP1〜CYP4のファミリーに属するもののみであり、「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」には、その中でもCYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6及びCYP3A(CYP3A4及びCYP3A5)が主要な分子種であると記載されています。

実際には、現場レベルで薬剤師が覚えておくべきものはCYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4の5つだと私は考えます。

これら5つについて、ひとつひとつ見ていきましょう。

CYP1A2

CYP1A2の基質、阻害薬、誘導薬は以下のとおりです。

基質

テオフィリン(テオドール、ユニフィル)、チザニジン(テルネリン)、ラメルテオン(ロゼレム)など

阻害薬等

フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)、シプロフロキサシン(シプロキサン)など

誘導薬等

喫煙、フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)など

解説

CYP1A2で重要なのは、喫煙で誘導されるということです。つまり、喫煙している人はCYP1A2で代謝される薬物の効果が低くなります。また、喫煙していた人が禁煙すると、CYP1A2で代謝される薬物の効果が強く現れるようになります。

喫煙は健康を害するのはもちろんのこと、薬物治療の効果にも影響を与える要素ですので、薬局において喫煙の有無、禁煙の意思などを確認、把握しておくことは非常に重要と言えます。


CYP2C9

CYP2C9の基質、阻害薬、誘導薬は以下のとおりです。

基質

ワルファリン(ワーファリン)、フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)、グリメピリド(アマリール)、グリベンクラミド(オイグルコン、ダオニール)、ナテグリニド(スターシス、ファスティック)など

阻害薬等

フルオロウラシル系抗悪性腫瘍薬(TS1、UFT、カペシタビン(ゼローダ)、ドキシフルリジン(フルツロン))、アゾール系抗真菌薬(ミコナゾール(フロリード)、フルコナゾール(ジフルカン))など

誘導薬等

リファンピシン(リファジン)、フェノバルビタール(フェノバール)、カルバマゼピン(テグレトール)、アプレピタント(イメンド)など

解説

CYP2C9で重要なのは、ワルファリンが基質だということです。

ワルファリンは臨床上欠かせない医薬品であり、その効き具合を適切に把握することが必須の医薬品です。ワルファリンが効き過ぎても、効かな過ぎても患者の命にかかわるという、非常に扱いの難しい医薬品です。

添付文書を見ると、ワルファリンはミコナゾールと併用禁忌であり、ワルファリンとカペシタビンの併用については警告が記載されています。

ちなみにワルファリンはラセミ体(S体とR体の等量混合物)です。S-ワルファリンはR-ワルファリンに比べ、約5倍の抗凝固作用を有します。S-ワルファリンは主にCYP2C9で、R-ワルファリンは主にCYP1A2とCYP3A4で代謝されます。強い抗凝固作用を有するS-ワルファリンの代謝に関与するCYP2C9を阻害または誘導する薬剤は、ワルファリンの薬効に大きな影響を与えます。

CYP2C19

CYP2C19の基質、阻害薬、誘導薬は以下のとおりです。

基質

オメプラゾール(オメプラール、オメプラゾン)、ランソプラゾール(タケプロン)、クロピドグレル(プラビックス)、ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)など

阻害薬等

フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)、アゾール系抗真菌薬(ボリコナゾール(ブイフェンド)、フルコナゾール(ジフルカン))など

誘導薬等

リファンピシン(リファジン)、リトナビル(ノービア、カレトラ、ヴィキラックス)など

解説

CYP2C19で重要なのは、遺伝子多型の存在です。日本人の約20%がCYP2C19活性をほとんど有しない低代謝型(poor metabolizer:PM)と言われています。

クロピドグレルはプロドラッグであり、CYP2C19で代謝されることで活性化します。PMは酵素活性がほとんどないため、クロピドグレルがほとんど効きません。クロピドグレルの処方頻度は大きいですから、日本人の約20%にはクロピドグレルが効かないというのは、多くの薬局薬剤師にとって驚くべきことだろうと思います。

逆にCYP2C19で代謝されることで活性を失う薬剤(例えばランソプラゾール)においては、PMでは効果が強く現れます。したがって、ランソプラゾールがよく効く人にはクロピドグレルは効きにくいし、ランソプラゾールが効きにくい人にはクロピドグレルがよく効くということになります。

CYP2D6

CYP2D6の基質、阻害薬、誘導薬は以下のとおりです。

基質

抗不整脈薬(プロパフェノン(プロノン)、フレカイニド(タンボコール))、三環系抗うつ薬(イミプラミン(トフラニール)、アミトリプチリン(トリプタノール))、β遮断薬(メトプロロール(セロケン、ロプレソール)、プロプラノロール(インデラル))、タモキシフェン(ノルバデックス)など

阻害薬等

パロキセチン(パキシル)、キニジン(キニジン)、テルビナフィン(ラミシール)など

誘導薬等

リファンピシン(リファジン)、デキサメタゾン(デカドロン、レナデックス)など

解説

CYP2D6は多くの薬物代謝に関わっており、医薬品の25%以上がCYP2D6で代謝されると言われています。抗不整脈薬、β遮断薬などの臨床上重要な薬物を代謝します。

CYP2D6にもCYP2C19と同様、遺伝子多型が存在します。日本人の場合、CYP2D6のPMは約1%と少ない一方、IM(intermediate metabolizer:中間代謝型)が比較的多いと言われています。IMとは、PMほどではないが正常型に比べると代謝能が低い個体です。

テルビナフィンがCYP2D6阻害薬であるというのは、個人的には面白いポイントです。抗真菌薬では、イトラコナゾールなどのアゾール系抗真菌薬が多くの薬物と相互作用を持つことは知っていましたが、アリルアミン系抗真菌薬であるテルビナフィンの相互作用については見落としていました。


CYP3A4

CYP3A4の基質、阻害薬、誘導薬は以下のとおりです。

基質

ベンゾジアゼピン系薬(トリアゾラム(ハルシオン)、アルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン))、カルシウム拮抗薬(ニフェジピン(アダラート)、アゼルニジピン(カルブロック))、スタチン系脂質異常症薬(シンバスタチン(リポバス)、ロスバスタチン(クレストール))など

阻害薬等

アゾール系抗真菌薬(イトラコナゾール(イトリゾール)、ボリコナゾール(ブイフェンド))、抗HIV薬(リトナビル(ノービア、カレトラ、ヴィキラックス))、マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン(クラリシッド、クラリス)、エリスロマイシン(エリスロシン))、グレープフルーツジュース など

誘導薬等

リファンピシン(リファジン)、抗てんかん薬(フェノバルビタール(フェノバール)、フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)、カルバマゼピン(テグレトール))、セントジョーンズワート など

解説

薬剤師が覚えておくべき5つのCYPの中で、最も重要なのがCYP3A4です。なぜならば、CYP3A4は医薬品の50%以上の代謝に関与しているからです。CYP3A4は基質特異性が低いため、非常に多くの薬物がその基質になるのです。

肝臓だけでなく小腸にも存在するというのも、CYP3A4の大きな特徴です。薬剤師が覚えておくべき5つのCYPの中で、小腸に存在するのはCYP3A4だけです。他の4つは肝臓にのみ存在します。

CYP3A4が小腸に存在することは、例えば、グレープフルーツジュースのCYP3A4阻害作用に関わっています。

グレープフルーツジュースは小腸においてCYP3A4を阻害します。つまりグレープフルーツジュースによるCYP3A4の阻害は、小腸において薬物(未変化体)が吸収される量を変化させるわけです。したがって、例えば薬物の点滴投与など、小腸での吸収を介さない経路で投与された薬物の動態には影響を与えません。

CYP3A4はセントジョーンズワートで誘導されることでも有名です。セントジョーンズワートはセイヨウオトギリソウとも呼ばれる植物で、うつ病や不安障害に効果があるとされています。薬効を標榜しない限りは食品として扱われるため、サプリメントやハーブとして市販されおり、注意が必要です。DHCのサプリメントも市販されています。

CYP3A4は非常に多くの薬物の代謝に関わるため、CYP3A4の阻害薬・誘導薬が与える影響は非常に大きいということを認識し、相互作用をチェックする体制を薬局として構築することが大切です。

阻害薬が与える影響が大きいということを認識するために、例としてイトリゾールノービアの添付文書をリンクしておきます。併用禁忌の多さを確認してみてください。

DIオンラインにCYP3A4の相互作用の見落とし防止の取り組みが載っていたので、参考にしていただければと思います。

まとめ

この記事ではCYPの中でも、薬剤師が知っておくべき5つについて解説しました。ここでの解説はあくまで概説ですから、細かい情報には立ち入っていませんし、情報に網羅性はありません。

情報が網羅されているわけではないですが、薬剤師向け情報誌「ファーマトリビューン」に掲載された一覧表は有用だと思いますので、リンクしておきます。



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