嚥下困難者用製剤加算は自家製剤加算、計量混合加算、一包化加算などに比べると算定の機会は圧倒的に少ないです。しかも算定要件が厳しいわりに点数はそれほど高くありません。ですから重要度はあまり高くないのですが、一応理解しておいたほうが良いです。
ここでは嚥下困難者用製剤加算について解説します。
嚥下困難者用製剤加算の算定要件
嚥下困難者用製剤加算について、「調剤報酬点数表」および「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」には次のように記載されています。
嚥下困難者に係る調剤について、当該患者の心身の特性に応じた剤形に製剤して調剤した場合は、嚥下困難者用製剤加算として、所定点数に80点を加算する。
嚥下困難者用製剤加算の取扱いは、以下のとおりとすること。
① 嚥下困難者用製剤加算は、嚥下障害等があって、市販されている剤形では薬剤の服用が困難な患者に対し、医師の了解を得た上で錠剤を砕く等剤形を加工した後調剤を行うことを評価するものである。
② 剤形の加工は、薬剤の性質、製剤の特徴等についての薬学的な知識に基づいて行わなければならない。
③ 嚥下困難者用製剤加算は、処方せん受付1回につき1回算定できる。
④ 1剤として取り扱われる薬剤について、自家製剤加算は併算定できず、また、剤形を加工したものを用いて他の薬剤と計量混合した場合には、計量混合調剤加算を併算定することはできない。
⑤ 嚥下困難者用製剤加算を算定した場合においては、一包化加算は算定できない。
⑥ 薬剤師が剤形の加工の必要を認め、医師の了解を得た後剤形の加工を行った場合は、その旨調剤録等に記載する。
要約すると次のようになります。
- 嚥下困難者用製剤加算は80点。
- 嚥下困難者用製剤加算は内服薬調剤料に対する加算であり、頓服薬に対しては算定できない。
- 市販されている剤形では薬剤の服用が困難な患者に対し、錠剤を砕く等剤形を加工した後調剤を行うことを評価するもの。
- 処方せん受付1回につき1回算定できる。
- 嚥下困難者用製剤加算に係る剤において、自家製剤加算、計量混合加算は併算定できない。
- 一包化加算は併算定できない。
嚥下困難者用製剤加算の基本的な考え方
嚥下困難者用製剤加算は、嚥下障害等があって、市販されている剤形では薬剤の服用が困難な患者に対し、医師の了解を得た上で錠剤を砕く等剤形を加工した後調剤を行うことを評価するもので、薬剤の性質、製剤の特徴等についての薬学的な知識に基づいて行うものです。
「市販されている剤形では薬剤の服用が困難な患者に対し」ですから、ガスター錠20mgを粉砕しても算定要件を満たしません。(ガスター散2%、10%が薬価基準収載されているため)
また「薬剤の性質、製剤の特徴等についての薬学的な知識に基づいて行うもの」ですから、タケプロンOD錠15mg粉砕のような、製剤の特徴を無視した加工では算定要件を満たしません。(タケプロンOD錠は粉砕すると失活するため)
嚥下困難者用製剤加算は内服薬調剤料に対する加算である
嚥下困難者用製剤加算は内服薬調剤料に対する加算ですから、頓服薬に対して算定することはできません。
しかしながら、嚥下障害がある患者に対し、内服薬と合わせて頓服薬が処方されていれば、頓服薬についても粉砕などの加工は必要です。この場合、頓服薬の調剤行為が自家製剤加算の算定要件を満たしていれば、頓服薬の自家製剤加算を算定できます。
嚥下困難者用製剤加算は処方せん受付1回につき1回算定できる
嚥下困難者用製剤加算は処方せん中のすべての内服薬を対象として剤形加工を行うことを評価するものですから、処方せん受付1回について1回のみ算定できます。
「処方せん中のすべての内服薬を対象として剤形加工を行う」となっていますが、必ずしも処方せん中すべての錠剤を粉砕しなければならないわけではありません。一部の錠剤についてはそのまま服用できるという場合は、その錠剤については粉砕しなくても嚥下困難者用製剤加算の算定要件を満たします。
つまり、処方された医薬品が服用可能であるかを一つずつ確認し、市販の剤形のままでは服用できないと判断したものだけを加工すれば嚥下困難者用製剤加算の算定要件を満たすということです。
嚥下困難者用製剤加算と自家製剤加算、計量混合加算の併算定
嚥下困難者用製剤加算は処方せん中のすべての内服薬を対象として剤形加工を行うことを評価するものであるのに対し、自家製剤加算、計量混合加算は「調剤行為ごとに」算定できるものです。
これら加算の同時算定については、「嚥下困難者用製剤加算に係る剤において、自家製剤加算、計量混合加算は併算定できないが、別剤であれば同時算定可能」となっています。
嚥下困難者用製剤加算と一包化加算の併算定
嚥下困難者用製剤加算は処方せん中のすべての内服薬を対象として剤形加工を行うことを評価するものであり、一包化加算もまた処方せん中すべての内用固形剤を対象として一包化することを評価するものです。
ですから、1枚の処方せん中に一包化加算と嚥下困難者用製剤加算に該当するケースがあったとしても、いずれか一方しか算定できません。
嚥下困難者用製剤加算を算定するケースは少ない
嚥下困難者用製剤加算について解説しましたが、実は嚥下困難者用製剤加算を算定するケースは多くありません。
嚥下困難者用製剤加算を算定するための剤形加工は、ほとんどの場合、自家製剤加算の算定要件を満たしており、その場合、嚥下困難者用製剤加算もしくは自家製剤加算のどちらかを算定することになります。
嚥下困難者用製剤加算の点数が処方日数に関わらず一定であるのに対し、自家製剤加算の点数は処方日数が長くなるにつれて高くなりますから、処方日数が一定以上あれば自家製剤加算を算定した方が薬局にとっては得になります。
したがって嚥下困難者用製剤加算を算定可能なケースがあったとしても、実際に嚥下困難者用製剤加算を算定するケースは少ないのが実際です。
この件について詳しくは以下の記事をご覧ください。