薬剤師による調剤薬局の仕事解説

事務仕事から人材育成まで、調剤薬局の仕事すべてを管理薬剤師が解説します。

褥瘡治療薬の使い分けをガイドラインに沿って解説

f:id:chouzai:20171015193136j:plain
みなさんは褥瘡治療薬の使い分けを理解しているでしょうか?

褥瘡治療薬にはきちんとした使い分けがありますので、処方内容を見るだけで褥瘡の状態をある程度推測することが可能です。褥瘡の状態を正しく把握することで、的確な服薬指導ができるようになります。

この記事では褥瘡治療薬の使い分けをガイドラインに沿って解説します。ぜひ使い分けを学んでいってください。



褥瘡治療の基本的方針

褥瘡治療薬の使い分けについて解説する前に、褥瘡治療の基本方針について説明します。

褥瘡の予防、ケアの基本は次の通りです。

褥瘡に対する予防・ケアの基本コンセプトとして,他の創傷の場合と同様に創に不要な圧迫,ずれなどの外力を加えないこと,すなわち,創面保護の維持を基本方針とした.

褥瘡診療ガイドラインより引用

褥瘡の予防、ケアの基本は圧力、ずれ力などの外力を加えないことです。長時間圧力がかかることで生じる不可逆的な阻血性障害によって褥瘡が発生します。ですから予防、ケアのためには圧力を分散させることが大切です。

褥瘡が発生した場合には、次のような方針で治療を行います。

褥瘡が生じた時には,深い褥瘡の治療前半(黒色期,黄色期)では TIMEコンセプトによる wound bed preparation を,
一方,浅い褥瘡と深い褥瘡の治療後半(赤色期,白色期)ではmoist wound healing を治療コンセプトとした.

なお,TIME コンセプトとは
T(tissue:nonviable or deficientの改善,すなわち壊死・不活性組織の管理),
I(infection or Inflammation の改善,すなわち感染・炎症の管理),
M(moisture imbalance の改善,すなわち滲出液の管理),
E(edge of wound:nonadvancing orundermined epidermal margin の改善,すなわち創辺縁の管理)
の頭文字をとったものである.

褥瘡診療ガイドラインより引用

皮下脂肪組織以下に及ぶ深い褥瘡の場合、褥瘡は黒色期→黄色期→赤色期→白色期と病期を推移しながら治癒していきます。各病期の状態は下の画像を参考にしてください。画像は日本皮膚科学会ホームページより引用しています。

f:id:chouzai:20171010010345j:plain
各病期の解説も日本皮膚科学会ホームページから引用しておきます。

「黒色期」は壊死した組織の塊が黒く変色して付着した状態で、
「黄色期」は塊状の黒色壊死組織が取り除かれ、黄土色の深部壊死組織や不良肉芽が露出するようになる状態です。

「赤色期」は傷が治る過程で「肉芽組織」と呼ばれる血管に富む組織が成長してくる時期です。

肉芽組織が盛り上がり、周囲の皮膚との段差がなくなると周囲皮膚から「上皮化」と言って皮膚ができて傷が塞がる過程が始まります。この時期を「白色期」と言います。

wound bed preparation (ウンド ベッド プレパレーション)

深い褥瘡の黒色期、黄色期では wound bed preparation という治療方針を取ります。

【wound bed preparation(創面環境調整)】
創傷の治癒を促進するため,創面の環境を整えること.具体的には壊死組織の除去,細菌負荷の軽減,創部の乾燥防止,過剰な滲出液の制御,ポケットや創縁の処理を行う.

褥瘡診療ガイドラインより引用

wound bed preparation は日本語では「創面環境調整」と訳されます。治療後半の赤色期、白色期で肉芽形成や上皮化が適切に進行するような環境作りを治療前半の黒色期、黄色期に行いましょうということです。

wound bed preparation を実践するための着眼点としてTIMEという考え方があります。

【TIME】
Wound bed preparation の実践的指針として,創傷治癒阻害要因を T(組織),I(感染または炎症),M(湿潤),E(創縁)の側面から検証し,治療・ケア介入に活用しようとするコンセプトをいう.

褥瘡診療ガイドラインより引用

簡単に言うと、TIMEとは
T:壊死組織の除去
I:感染の制御 ・ 除去
M:湿潤環境の保持(滲出液の制御 ・ 除去)
E:創辺縁の管理(ポケットの解消 ・ 除去)
ということです。

TIMEコンセプトによる wound bed preparation を行うことが黒色期、黄色期の治療方針です。

moist wound healing(モイスト ウンド ヒーリング)

深い褥瘡の赤色期、白色期および浅い褥瘡では moist wound healing という治療方針を取ります。

【moist wound healing(湿潤環境下療法)】
創面を湿潤した環境に保持する方法.滲出液に含まれる多核白血球,マクロファージ,酵素,細胞増殖因子などを創面に保持する.自己融解を促進して壊死組織除去に有効であり,また細胞遊走を妨げない環境でもある.

褥瘡診療ガイドラインより引用

moist wound healing は日本語では「湿潤環境下療法」と訳されます。傷口は湿っていた方が治りが良いので、適度に湿らせておきましょうという方針です。

内容をまとめます。

深い褥瘡の黒色期、黄色期ではTIMEコンセプトによる wound bed preparation を行い、深い褥瘡の赤色期、白色期および浅い褥瘡では moist wound healing を行います。これが褥瘡治療の基本方針です。


褥瘡治療薬の使い分け

ガイドラインで推奨される各褥瘡治療薬の使用法を解説します。なお、本文中に出てくる推奨度については次のように分類されています。

<推奨度の分類>
A:行うよう強く推奨する
B:行うよう推奨する
C1:良質な根拠はないが,選択肢の 1 つとして推奨する
C2:十分な根拠がないので(現時点では)推奨できない
D:行わないよう推奨する
はじめに褥瘡治療薬の使い分けの一覧表で示します。必要に応じて参照してください。推奨度Bを◎、推奨度C1を◯、推奨度C2を△で表現しています。基剤については以下のように分類しています。
油脂性:滲出液の少ない創傷面に適する
乳剤性:乾燥した創傷面に適する
水溶性:滲出液の多い創傷面に適する
製品名 基剤 深い褥瘡 浅い褥瘡
黒色期、黄色期 赤色期、白色期
T:壊死組織 I:感染 M:滲出液 E:ポケット
カデキソマー・ヨウ素 カデックス軟膏 水溶性
ブロメライン ブロメライン軟膏 水溶性
スルファジアジン銀 ゲーベンクリーム 乳剤性(O/W型)
フラジオマイシン硫酸塩・結晶トリプシン フランセチン・T・パウダー
ポビドンヨード・シュガー ユーパスタコーワ軟膏 水溶性
ポビドンヨードゲル イソジンゲル 水溶性
ヨードホルム ヨードホルム
ヨウ素軟膏 ヨードコート軟膏 水溶性
抗生物質(抗菌薬)含有軟膏 例:ゲンタシン軟膏
白色ワセリン プロペト、白色ワセリン 油脂性
酸化亜鉛 亜鉛華軟膏、亜鉛華単軟膏 油脂性
ジメチルプロピルアズレン アズノール軟膏 油脂性
トラフェルミン フィブラストスプレー
トレチノイントコフェリル オルセノン軟膏 乳剤性(O/W型)
プロスタグランジン E1 プロスタンディン軟膏 油脂性
ブクラデシンナトリウム アクトシン軟膏 水溶性
塩化リゾチーム リフラップ軟膏 乳剤性(W/O型)
幼牛血液抽出物 ソルコセリル軟膏 乳剤性(W/O型)
アルミニウムクロロヒドロキシアラントイネート(アルクロキサ) アルキサ軟膏、イサロパン外用散 水溶性(アルキサ軟膏)
ここからは、各褥瘡治療薬の詳しい使い分けについて、ガイドラインに沿って見ていきましょう。

深い褥瘡、T:壊死組織の除去

深い褥瘡において、壊死組織の除去のためにどの褥瘡治療薬を使用すれば良いか見ていきます。

(壊死組織の除去に)外科的デブリードマン以外ではどのような局所処置を行えばよいのか?

推奨文:
深い褥瘡の壊死組織を除去するには,カデキソマー・ヨウ素を使用することを推奨する.(B)
ブロメラインを使用することを選択肢の 1 つとして推奨する.乾燥した壊死組織に対しては,スルファジアジン銀を使用することを選択肢の 1 つとして推奨する.(C1)
フラジオマイシン硫酸塩・結晶トリプシンは十分な根拠がないので(現時点では)推奨できない.(C2)

褥瘡診療ガイドラインより引用。褥瘡治療薬に直接関係ない部分は省いています。

褥瘡治療薬としてカデキソマー・ヨウ素、ブロメライン、スルファジアジン銀、フラジオマイシン硫酸塩・結晶トリプシンが登場しました。それぞれの製品名は以下の通りです。

製品名
カデキソマー・ヨウ素 カデックス軟膏
ブロメライン ブロメライン軟膏
スルファジアジン銀 ゲーベンクリーム
フラジオマイシン硫酸塩・結晶トリプシン フランセチン・T・パウダー
デブリードマンの解説は以下の引用を読んで下さい。

【デブリードマン】
死滅した組織,成長因子などの創傷治癒促進因子の刺激に応答しなくなった老化した細胞,異物,およびこれらにしばしば伴う細菌感染巣を
除去して創を清浄化する治療行為.①閉塞性ドレッシングを用いて自己融解作用を利用する方法,②機械的方法(wet-to-dry dressing,高圧洗浄,水治療法,超音波洗浄など),③蛋白分解酵素による方法,④外科的方法,⑤ウジによる生物学的方法などがある.

褥瘡診療ガイドラインより引用

壊死組織の除去には外科的デブリードマンの他に、外用薬によるデブリードマンなどがあります。いくつかの方法を組み合わせることで壊死組織の除去効果が高まる場合があります。また外科的デブリードマンが不可能なケースでも外用薬によるデブリードマンが選択されることが多いです。

外用薬によるデブリードマンには、酵素製剤による化学的デブリードマン、適切な湿潤環境を保つことによって自己融解を促進させる方法などがあります。

壊死組織の除去に使われる褥瘡治療薬の特徴を見ていきましょう。

カデキソマー・ヨウ素(カデックス軟膏)

カデキソマー・ヨウ素は、基剤カデキソマーの三次元的格子配列の中にヨウ素を物理的に取り込ませたものです。下の画像のような模式的構造式で示されます。(画像はカデックス軟膏0.9%の添付文書より引用)

f:id:chouzai:20171012002259g:plain
基剤のカデキソマーが水分を吸収するに伴い徐々にヨウ素が放出され、潰瘍面や吸着された細菌に対し持続的な殺菌作用を発揮します。

カデキソマーは滲出液の吸収作用と共に細菌などを吸収する作用もあるため、滲出液や膿の多い創に適しています。しかし、交換時に古いポリマービーズ(カデキソマーの残りカス)を残さないようにしっかり洗浄する必要があるため、洗浄の難しいポケットには用いません。

一方、滲出液が乏しい場合には、創傷面が乾燥してかえって創傷治癒を遅延させることがあります。また、肉芽組織が盛り上がった段階では、ヨウ素によってかえって肉芽組織が障害されることもあります。

ブロメライン(ブロメライン軟膏)

ブロメラインは蛋白分解酵素であり、アルギニンとアラニン、アラニンとグルタミンのアミノ酸結合を加水分解することにより蛋白質を分解し、創傷面の壊死組織の分解・除去、清浄化に働きます。

基剤は吸水性の高いマクロゴール基剤なので、滲出液の多い創に適しています。滲出液の減少時、創面水分量の低下時には壊死組織の除去作用が減弱するため注意が必要です。

また、副作用で疼痛が高頻度に発生することに注意が必要です。潰瘍周囲の正常皮膚は油脂性基剤の軟膏で保護するなど対処します。

スルファジアジン銀(ゲーベンクリーム)

スルファジアジン銀はサルファ剤の一種であり、グラム陰性菌(クレブシエラ属、緑膿菌)、グラム陽性菌(ブドウ球菌属、レンサ球菌属)、真菌(カンジダ属)など幅広い抗菌スペクトルを有しています。

水分含有量の多い乳剤性基剤であるため、壊死組織の自己融解を目的に乾燥した壊死組織に対し使用されることが多いです。滲出液の多い創傷には適しません。

フラジオマイシン硫酸塩・結晶トリプシン(フランセチン・T・パウダー)

フラジオマイシン硫酸塩・結晶トリプシンは抗生物質のフラジオマイシン硫酸塩と、壊死組織融解作用を有する蛋白分解酵素のトリプシンを配合した外用散布剤です。両者の併用により病巣の清浄化作用並びに蛋白分解酵素製剤による化学的デブリードマン作用により抗生物質の病巣内移行が亢進し、治癒機転が促進されます。

散剤のため乾いた創傷面には適しません。またトリプシンには血液凝固阻止作用があるため、創面から出血がある場合には禁忌です。

フラジオマイシン硫酸塩・結晶トリプシンは以下の理由により、使用が推奨されません。

フラジオマイシン硫酸塩・結晶トリプシンは壊死組織を除去に関するエキスパートオピニオンがあるものの,長期使用により耐性菌の出現する可能性があるので推奨度 C2 とした.

褥瘡診療ガイドラインより引用

深い褥瘡、I:感染の制御 ・ 除去

深い褥瘡において、感染の制御 ・ 除去のためにどの褥瘡治療薬を使用すれば良いか見ていきます。

感染を制御するにはどのような局所処置を行えばよいのか?

推奨文:
褥瘡の感染を制御する目的でカデキソマー・ヨウ素,スルファジアジン銀,ポビドンヨード・シュガーの使用を推奨する.(B)
ポビドンヨードゲル,ヨードホルム,ヨウ素軟膏の使用を選択肢の 1 つとして推奨する.(C1)
抗生物質(抗菌薬)含有軟膏の使用は十分な根拠がないので(現時点では)推奨できない.(C2)

褥瘡診療ガイドラインより引用。褥瘡治療薬に直接関係ない部分は省いています。

褥瘡治療薬としてカデキソマー・ヨウ素、スルファジアジン銀、ポビドンヨード・シュガー、ポビドンヨードゲル、ヨードホルム、ヨウ素軟膏が登場しました。それぞれの製品名は以下の通りです。

製品名
カデキソマー・ヨウ素 カデックス軟膏
スルファジアジン銀 ゲーベンクリーム
ポビドンヨード・シュガー ユーパスタコーワ軟膏
ポビドンヨードゲル イソジンゲル
ヨードホルム ヨードホルム
ヨウ素軟膏 ヨードコート軟膏
感染の制御 ・ 除去に使われる褥瘡治療薬の特徴を見ていきましょう。カデキソマー・ヨウ素、スルファジアジン銀についてはすでに上で解説していますので省略します。

ポビドンヨード・シュガー(ユーパスタコーワ軟膏)

ポビドンヨード・シュガーは含有されるヨウ素の抗菌作用により感染抑制効果を発揮します。白糖は細菌の成長を阻害し MRSA を含めた黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成を抑制します。

白糖の吸水作用により創面の浮腫を軽減すると共に、線維芽細胞のコラーゲン合成を促進して良好な肉芽形成効果を発揮します。したがって滲出液の多い創に適しています。

一方、滲出液が乏しい場合には創面が乾燥してかえって創傷治癒が遅延することがあります。また、肉芽組織が盛り上がった赤色期では、ポビドンヨードによってかえって肉芽組織が傷害される恐れがあります。

ポビドンヨードゲル(イソジンゲル)

ポビドンヨードゲルはヨウ素の抗菌作用により感染制御作用を発揮します。MRSA を含む細菌のみならず,ウイルスに対しても強い殺菌(あるいは不活化)作用を有しており、殺菌効果についてはポビドンヨード・シュガーより強いと言われています。

有効成分であるポビドンヨードは、ポリビニルピロリドンとヨウ素の複合体であり、細菌、ウイルス、真菌等に対して広い抗微生物スペクトルを有しています。皮膚、粘膜に対する刺激が弱いこと、更に院内感染の起炎菌として注目されているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対しても効力を示すことから、ポビドンヨードを含有する製剤は世界各国で汎用されています。

ヨードホルム(ヨードホルム)

ヨードホルムそのものには殺菌作用はなく、体液に溶けて徐々に分解し、ヨウ素を遊離して殺菌作用を発揮します。また制臭,分泌抑制作用,軽度の鎮痛作用も示します。

ヨウ素軟膏(ヨードコート軟膏)

ヨウ素軟膏はカデキソマー・ヨウ素と同等のヨウ素放出性を示し、カデキソマー・ヨウ素と同等の殺菌作用を示します。

添加物として水溶性高分子等が配合されています。これら添加物は高い吸水能を有しており、吸水するとゲル化するという基剤特性を持っています。吸水能は精製水で 7.3mlgと各種製剤中で最大級であり、滲出液の多い創に適します。

一方、滲出液が少ない場合はゲル化しにくいため創面の乾燥に注意が必要です。

抗生物質(抗菌薬)含有軟膏

抗生物質(抗菌薬)含有軟膏については、以下の理由により使用が推奨されません。

抗生物質(抗菌薬)含有軟膏についてのランダム化比較試験が 2 編ある.

硫酸ゲンタマイシン(クリーム基剤)vs スルファジアジン銀では,二重盲検で行われ 2 週の評価期間で細菌の推移に有意差なしとしている.

フィブリノリジン・デオキシリボヌクレアーゼ配合薬(クロラムフェニコール含有)vs カデキソマー・ヨウ素では,緑膿菌に対する 4 週後の消失率ではフィブリノリジン・デオキシリボヌクレアーゼ配合薬(クロラムフェニコール含有)がカデキソマー・ヨウ素に優っていたが,4 週および 6 週後判定における新たな菌の出現率については有意差なしとしている.

また,手術創に対する試験ではあるが,白色ワセリン vs Bacitracin軟膏の大規模なランダム化比較試験では感染率で有意差なくBacitracin 軟膏には少数ながら接触皮膚炎が発生したことから,白色ワセリンの方が安全であると結論付けられている.

いずれの試験においても抗生物質(抗菌薬)含有軟膏の優位性を示すエビデンスはなく,さらに文献 6)で述べられているように,抗生物質(抗菌薬)含有軟膏を深い褥瘡の感染制御を目的に使用する場合,長期間に渡って使用されることが多く,菌交代現象をおこす可能性があるため用いない方がよい.

褥瘡診療ガイドラインより引用

深い褥瘡、M:湿潤環境の保持(滲出液の制御 ・ 除去)

深い褥瘡において、湿潤環境の保持(滲出液の制御 ・ 除去)のためにどの褥瘡治療薬を使用すれば良いか見ていきます。滲出液の多寡により使用する薬が異なります。

黒色期~黄色期褥瘡で滲出液が過剰な時の局所処置にはどのような外用薬を用いればよいのか?

推奨文:
滲出液が過剰な時期にはカデキソマー・ヨウ素,ポビドンヨード・シュガーの使用を推奨する.(B)
ヨウ素軟膏の使用を選択肢の 1 つとして推奨する.(C1)

褥瘡診療ガイドラインより引用。褥瘡治療薬に直接関係ない部分は省いています。

黄色期の褥瘡では滲出液量が多いことが多く、 wound bed preparation の観点から滲出液のコントロールが望ましいです。

外用薬の頻回の交換はマンパワーやコストの観点からも不利益を生じるため強い吸湿剤の使用が好ましいですが、一方で強い吸湿剤の使用は、創面の乾燥傾向につながり moist wound healing の面から問題が生じる場合があります。

したがって、創面の改善に従い滲出液の量は減少することを念頭に十分な観察を行い、乾燥傾向が認められた場合にはアルゴリズムに従い,治療法の変更を検討する必要があります。

黒色期~黄色期褥瘡で滲出液が少ない時の局所処置にはどのような外用薬を用いればよいのか?

推奨文:
滲出液が少ない時期にはスルファジアジン銀の使用を推奨する.(B)
白色ワセリン,酸化亜鉛,ジメチルプロピルアズレンなどの油脂性軟膏の使用を選択肢の 1 つとして推奨する.(C1)

褥瘡診療ガイドラインより引用。褥瘡治療薬に直接関係ない部分は省いています。

深い褥瘡において、創面の乾燥は創傷治癒を遅らせる結果となります。

創傷を適度な湿潤環境に保つためには、適度な水分を含有する薬剤を使用するか、もしくは、創面の保護効果のある油脂性軟膏を使用する必要があります。特に黄色期においては水分保持作用のほか壊死組織の除去と感染制御作用を併せ持った製剤が理想的です。

深い褥瘡での湿潤環境の保持(滲出液の制御 ・ 除去)に用いる各褥瘡治療薬の製品名は次の通りです。

製品名
カデキソマー・ヨウ素 カデックス軟膏
ポビドンヨード・シュガー ユーパスタコーワ軟膏
ヨウ素軟膏 ヨードコート軟膏
スルファジアジン銀 ゲーベンクリーム
白色ワセリン プロペト、白色ワセリン
酸化亜鉛 亜鉛華軟膏、亜鉛華単軟膏
ジメチルプロピルアズレン アズノール軟膏
湿潤環境の保持(滲出液の制御 ・ 除去)に使われる褥瘡治療薬の特徴を見ていきましょう。カデキソマー・ヨウ素、ポビドンヨード・シュガー、ヨウ素軟膏、スルファジアジン銀についてはすでに上で解説していますので省略します。

白色ワセリン、酸化亜鉛、ジメチルプロピルアズレンは油脂性基剤の軟膏なので乾燥する創面を保護します。滲出液が少ない時には有用ですが、創面の感染制御効果や壊死組織除去効果はありません。

抗生物質(抗菌薬)含有軟膏もまた油脂性軟膏基剤ではありますが、慢性期の深い褥瘡に対しては耐性菌の出現する可能性があるため基本的には用いるべきではありません。

白色ワセリン(プロペト、白色ワセリン)

白色ワセリンは石油の成分から分離されたもので、主としてパラフィン基原油から得られる非結晶性軟膏様物質です。

プロペトは他の白色ワセリン製剤と比較し、夾雑有機酸類が少なく、その他の刺激性要素をほとんど含有しないという特徴があります。

酸化亜鉛(亜鉛華軟膏、亜鉛華単軟膏)

酸化亜鉛は皮膚のたん白質に結合又は吸着して不溶性の沈殿物や被膜を形成し、収れん、消炎、保護並びに緩和な防腐作用を発揮します。

亜鉛華軟膏、亜鉛華軟膏の違いは基剤です。亜鉛華軟膏の基剤である白色軟膏は水分・浸出液を吸収するため、皮膚からの分泌物が多い場合には亜鉛華軟膏の方が適しています。

ジメチルプロピルアズレン(アズノール軟膏)

ジメチルプロピルアズレンは抗炎症作用を有するアズレンの一種です。アズノール軟膏は精製ラノリン、白色ワセリンを基剤とする軟膏剤であり、湿疹をはじめ、熱傷・その他の皮膚疾患によるびらんや潰瘍の治療に用いられています。

深い褥瘡、E:創辺縁の管理(ポケットの解消 ・ 除去)

深い褥瘡において、創辺縁の管理(ポケットの解消 ・ 除去)のためにどの褥瘡治療薬を使用すれば良いか見ていきます。

ポケットがある時はどのような局所治療を行えばよいのか?

推奨文:
ポケット内に滲出液の多い創面であれば,ポビドンヨード・シュガーの使用を選択肢の 1 つとして推奨する.(C1)
また,滲出液が少なければトラフェルミン,トレチノイントコフェリルの使用を選択肢の 1 つとして推奨する.(C1)
しかし,改善しなければ外科的治療あるいは物理療法を検討する.

褥瘡診療ガイドラインより引用

ポケットの深部には壊死組織が残存しやすいため、肉芽の新生が妨げられ、感染のコントロールも困難です。また、滲出液のドレナージも不十分となりやすく過剰な湿潤状態を作りやすいです。さらに、ポケットは体動により容易にずれを生じ、さらなるポケットの拡大を招きやすいです。

したがって、これらの問題点を抽出して個々の症例に適したケアを行い、ポケットの原因となっている圧迫、ずれなどの排除に努める必要があります。しかしながら、十分なケアにより原因が排除できてもポケットが解消しない場合、漫然と外用薬による治療を継続するのではなく、外科的療法や陰圧閉鎖療法などの物理療法を考慮すべきです。

陰圧閉鎖療法については以下の引用を参照してください。

【陰圧閉鎖療法】
物理療法の一法である.創部を閉鎖環境に保ち,原則的に 125 mmHg から 150 mmHg の陰圧になるように吸引する.細菌や細菌から放出される外毒素を直接排出する作用と,肉芽組織の血管新生作用や浮腫を除去する作用がある.

褥瘡診療ガイドラインより引用

深い褥瘡での創辺縁の管理(ポケットの解消 ・ 除去)に用いる各褥瘡治療薬の製品名は次の通りです。

製品名
ポビドンヨード・シュガー ユーパスタコーワ軟膏
トラフェルミン フィブラストスプレー
トレチノイントコフェリル オルセノン軟膏
創辺縁の管理(ポケットの解消 ・ 除去)に使われる褥瘡治療薬の特徴を見ていきましょう。ポビドンヨード・シュガーについてはすでに上で解説していますので省略します。

トラフェルミン(フィブラストスプレー)

トラフェルミンには強い血管新生作用と肉芽形成促進作用があり、この作用によってポケットの閉鎖を期待できるものと考えられます。

死腔を埋め湿潤を保持するために、他の外用薬やドレッシング材などを併用します。

トレチノイントコフェリル(オルセノン軟膏)

トレチノイントコフェリルは線維芽細胞の遊走能亢進作用,細胞遊走促進作用,細胞増殖促進作用などにより,肉芽形成促進作用および血管新生促進作用を発揮します。

基剤に水分を 70% 含む乳剤性基剤を用いているため、乾燥傾向の強い創面に適しています。滲出液の多い創面や浮腫の強い創面には適していません。

深い褥瘡の赤色期、白色期(moist wound healing)

深い褥瘡の赤色期、白色期においてどのような褥瘡治療薬を使用すれば良いか見ていきます。

赤色期~白色期褥瘡の局所処置にはどのような外用薬を用いればよいのか?

推奨文:
滲出液が適正~少ない創面にはトラフェルミン,プロスタグランジン E1 の使用を推奨する.滲出液が少ない創面にはトレチノイントコフェリルの使用を推奨する.滲出液が過剰または浮腫が強い創面にはブクラデシンナトリウムの使用を推奨する.(B)
滲出液が適正~少ない創面には塩化リゾチーム,幼牛血液抽出物,白色ワセリン,酸化亜鉛,ジメチルプロピルアズレンなどの使用を選択肢の 1 つとして推奨する.滲出液が過剰または浮腫が強い創面にはアルミニウムクロロヒドロキシアラントイネート(アルクロキサ)の使用を選択肢の 1 つとして推奨する.(C1)

褥瘡診療ガイドラインより引用

治療後半になると創面は赤色期となり、感染の危険は低下します。この時期には適度な湿潤環境を維持することが最も重要となります。また、良好な肉芽が形成されてくると創は縮小を始めます。

したがって、治療の要点は創面の保護、肉芽形成促進作用、創面の縮小作用を有する外用薬を選択することです。本邦においては、肉芽形成促進作用を有する外用薬が複数開発されており、これらを創面の滲出液の多寡や浮腫の有無で選択していくことになります。

深い褥瘡の赤色期、白色期に用いる各褥瘡治療薬の製品名は次の通りです。

製品名
トラフェルミン フィブラストスプレー
プロスタグランジン E1 プロスタンディン軟膏
トレチノイントコフェリル オルセノン軟膏
ブクラデシンナトリウム アクトシン軟膏
塩化リゾチーム リフラップ軟膏
幼牛血液抽出物 ソルコセリル軟膏
白色ワセリン プロペト、白色ワセリン
酸化亜鉛 亜鉛華軟膏
ジメチルプロピルアズレン アズノール軟膏
アルクロキサ アルキサ軟膏、イサロパン外用散
深い褥瘡の赤色期、白色期に使われる褥瘡治療薬の特徴を見ていきましょう。トラフェルミン、トレチノイントコフェリル、白色ワセリン、酸化亜鉛、ジメチルプロピルアズレンについてはすでに上で解説していますので省略します。

プロスタグランジン E1(プロスタンディン軟膏)

プロスタグランジン E1 は皮膚血流増加作用、血管新生促進作用により、創傷治癒を促進します。また、線維芽細胞にも作用して増殖を促進し、さらに線維芽細胞からの IL-6 を増加させることで、角化細胞の増殖をも促進します。

油脂性のプラスチベースが基剤として用いられているので、滲出液量が適正~少ない創に適していますが、滲出液の多い創面や浮腫の強い創面には適していません。

なお、プロスタンディン軟膏は、重篤な心不全のある患者、出血(頭蓋内出血、出血性眼疾患、消化管出血、喀血等)している患者、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には禁忌となっています。本剤は外用薬ですが、動物実験の経皮投与において血中への移行がみられることから、このように禁忌が設定されています。

ブクラデシンナトリウム(アクトシン軟膏)

ブクラデシンナトリウムは局所血流改善作用、血管新生促進作用、肉芽形成促進作用、表皮形成促進作用などにより創傷治癒を促進します。

基剤のマクロゴールは吸湿性のため滲出液過多の創面や浮腫の強い創面に適しています。一方、滲出液の少ない創ではかえって乾燥するので注意が必要です。

塩化リゾチーム(リフラップ軟膏)

塩化リゾチームは表皮細胞の増殖作用と線維芽細胞の増殖促進作用を有し、ムコ多糖合成を刺激することで、創傷治癒を促進します。

水分含有量 23% の乳剤性基剤を用いているため、創面への水分供給作用よりは保護効果が主な作用です。

幼牛血液抽出物(ソルコセリル軟膏)

幼牛血液抽出物は、細網内皮系を賦活した幼牛の血液より除タンパクして得られた抽出物であり、各種アミノ酸、ポリペプチド類、グルコース、オキシ酸、核酸塩基、無機物質等を含んでいます。

組織機能を賦活し、線維芽細胞増殖を促進することで、肉芽形成、血管再生を促進して創傷の治癒を速めると言われています。

水分を 25% 含む乳剤性基剤を用いているため、その保護作用により滲出液が適性~少ない創面に適しています。滲出液の多い創面や浮腫の強い創面には適していません。

アルクロキサ(アルキサ軟膏、イサロパン外用散)

アルクロキサは、アラントインとヒドロキシ塩化アルミニウムの縮合物です。1912年に民間信仰薬「ひれはりそう」の有効物質がアラントインであることが発見され、1935年に蛆による創傷や潰瘍の治療促進がアラントインの作用によるものであることが報告されています。

アルクロキサは血管新生促進作用、創面の乾燥化促進作用、肉芽形成促進作用、表皮再生促進作用、創面縮小作用を有するとされています。

基剤には散剤とゲル剤がありますが、どちらも吸湿能力を有しています。したがって、滲出液が過剰な創面や浮腫の強い創面に使用し、乾燥した創面への使用は避けます。

浅い褥瘡(moist wound healing)

浅い褥瘡においてどのような褥瘡治療薬を使用すれば良いか見ていきます。

浅い褥瘡には減圧以外にどのような局所処置を行えばよいのか?

推奨文:
真皮レベルまでの浅い褥瘡(びらん,浅い潰瘍)の治癒には,創の保護と適度な湿潤環境の維持が必要である.
外用薬を使用するのであれば,創面保護の目的で白色ワセリン,酸化亜鉛,ジメチルプロピルアズレンなどの油脂性基剤軟膏,短期間の使用であれば抗生物質(抗菌薬)含有軟膏などの使用を選択肢の 1 つとして推奨する.(C1)
また,ブクラデシンナトリウム,プロスタグランジン E1 などの肉芽形成促進薬の使用も選択肢の1 つとして推奨する.(C1)

褥瘡診療ガイドラインより引用。褥瘡治療薬に直接関係ない部分は省いています。

真皮レベルまでの浅い褥瘡(びらん、浅い潰瘍)では、創の保護と適度な湿潤環境を維持することが必要であるため、ドレッシング材が治療に用いられることが多いです。

外用薬を用いる場合、創面保護を目的とするのであれば撥水性の高い白色ワセリンに代表されるような油脂性基剤の軟膏を用います。基剤が油脂性軟膏の酸化亜鉛、ジメチルプロピルアズレンなども同様であり、moist wound healing を目指して使用します。また、ブクラデシンナトリウム、プロスタグランジン E1 などのような肉芽形成促進薬を用いてもよいです。

ゲンタマイシン含有軟膏などの抗生物質(抗菌薬)含有軟膏は油脂性基剤であり、創面の保護目的と感染の制御、予防の目的で急性期、あるいは慢性期の浅い褥瘡に対して、短期間であれば用いてもよいです。しかし、長期使用により耐性菌の出現する可能性があるので注意が必要です。

浅い褥瘡に用いる各褥瘡治療薬の製品名は次の通りです。

製品名
白色ワセリン プロペト、白色ワセリン
酸化亜鉛 亜鉛華軟膏
ジメチルプロピルアズレン アズノール軟膏
プロスタグランジン E1 プロスタンディン軟膏
ブクラデシンナトリウム アクトシン軟膏
すべての製品について上で解説済みですので、個別の解説は省略します。



※当サイト上の記載内容に関し、いかなる保証をするものでもありません。当サイト上の記載内容に誤りおよび記載内容に基づいて被った被害については、当サイトは一切責任を負いかねます。