薬剤師による調剤薬局の仕事解説

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ドパミン神経系の解説〜統合失調症、錐体外路症状、パーキンソン病の基礎〜

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ドパミン神経系の理解は統合失調症やパーキンソン病を理解する上で欠かせません。しかし、ドパミン神経系については国家試験対策として勉強した程度で、実は深く理解していないという薬剤師が多いのではないかと思います。

ここではドパミン神経系について解説します。統合失調症、錐体外路症状、パーキンソン病の病態理解の基礎となる知識です。ぜひ身につけてください。



ドパミン神経系には4つの経路がある

中枢においてドパミン神経系には4つの経路があります。
①中脳辺縁系神経路
②中脳皮質系神経路
③黒質線条体系神経路
④漏斗下垂体系神経路
です。

それぞれ
①統合失調症の陽性症状
②統合失調症の陰性症状、認知機能
③錐体外路症状、パーキンソン病
④血漿プロラクチン値
に影響していると言われています。

表にまとめます。

ドパミン神経系 影響
中脳辺縁系 統合失調症の陽性症状
中脳皮質系 統合失調症の陰性症状、認知機能
黒質線条体系 錐体外路症状、パーキンソン病
漏斗下垂体系 血漿プロラクチン値


統合失調症に影響しているのは中脳辺縁系、中脳皮質系

統合失調症の発症機序は明らかになっておらず様々な仮説があるのですが、統合失調症の時間的経過の理解に役立つ仮説を紹介します。こちらの書籍「レシピプラス Vol.15 No.3 まるごとスッキリ抗精神病薬を整理する」から引用します。

統合失調症発症時には、中脳皮質系神経路の機能低下による認知機能障害が他の症状に先行して起こります。それに対して、恒常性を保つために情報がフィードバックされて中脳辺縁系が同時に活性化され、陽性症状が引き起こされます。この時、黒質線条体系と漏斗下垂体系は正常機能を保っていると考えられています。

つまり、統合失調症の症状の起こる順番は、認知機能障害→陽性症状→陰性症状ということです。統合失調症の勉強をすると陽性症状と陰性症状ばかりが目立ちますが、実はそれらに先行して認知機能障害が起こっているというのは、統合失調症を理解する上で欠かせないことです。

統合失調症発症時には黒質線条体系と漏斗下垂体系は正常機能を保っています。しかし抗精神病薬で統合失調症を治療したとき、黒質線条体系でドパミンを遮断すると錐体外路症状が、漏斗下垂体系でドパミンを遮断すると高プロラクチン血症が起こります。

ドパミン神経系とセロトニン神経系の関係

中脳皮質系ではセロトニン神経系がドパミン神経系を制御していると考えられています。セロトニンはドパミン神経終末に存在するセロトニン5-HT2A受容体を介してドパミンの放出を抑制しています。

中脳皮質系は統合失調症の陰性症状に関与する神経系です。クロルプロマジンのように強力にドパミンD2受容体を遮断する薬剤は、中脳辺縁系に作用して陽性症状を改善する一方、中脳皮質系に作用して陰性症状を悪化させます。

リスペリドンなどのセロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)と呼ばれる薬剤は、中脳皮質系においてセロトニン5-HT2A受容体を遮断することでドパミンの放出量を増やし陰性症状の悪化を防いでいると考えられています。

ドパミン神経系とアセチルコリン神経系の関係

黒質線条体系では、ドパミン神経系はアセチルコリン神経終末に接続してアセチルコリンの遊離を抑制しています。抗精神病薬によってドパミン神経系の活動が弱くなると、相対的にアセチルコリン神経系の活動が活発になります。

このようにドパミン神経系とアセチルコリン神経系の活動のバランスが崩れ、アセチルコリン神経系が優位になると錐体外路症状が引き起こされます。

錐体外路症状にはジストニア、アカシジア、パーキンソニズム、遅発性ジスキネジアなどがあります。中でも遅発性ジスキネジアは治療が困難なことで知られています。錐体外路症状について詳しくは以下の記事をご覧ください。

高プロラクチン血症の発症機序

プロラクチンは脳下垂体前葉から分泌されるホルモンです。高プロラクチン血症の症状として乳汁分泌、女性化乳房、月経異常、排卵抑制、性機能異常などがあります。

プロラクチンの分泌は、下垂体のドパミンD2受容体で制御されています。プロラクチン分泌細胞上のドパミンD2受容体を遮断するとプロラクチンの分泌が過剰になり、高プロラクチン血症が起こります。

セロトニン5-HT2A受容体もプロラクチン分泌に関与しており、プロラクチン分泌細胞上のセロトニン5-HT2A受容体が刺激されるとプロラクチン分泌が盛んになります。

したがってクロルプロマジンのように強力にドパミンD2受容体を遮断する薬剤はプロラクチン分泌を促進し、高プロラクチン血症を引き起こします。

一方リスペリドンなどのセロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)と呼ばれる薬剤は、ドパミンD2受容体を遮断すると同時にセロトニン5-HT2A受容体も遮断するため高プロラクチン血症を引き起こしにくいです。

まとめ

ドパミン神経系について理解が深まったでしょうか?統合失調症の患者への服薬指導に困ることがあれば、まずはドパミン神経系の仕組みを思い出してください。きっといつもより深い服薬指導ができるでしょう。

この記事は「レシピプラス Vol.15 No.3 まるごとスッキリ抗精神病薬を整理する」の内容を要約したものです。より詳しい解説、各抗精神病薬の特徴をご覧になりたい方は書籍をお買い求めください。



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