錐体外路症状といえば、まず思いつくのが抗精神病薬による薬剤性パーキンソニズムです。統合失調症はドパミンが過剰になった病態であり、パーキンソン病はドパミンが不足した病態ですから、統合失調症の治療としてドパミン受容体を遮断するとパーキンソン病様症状が現れるのは理解に難くありません。
しかし錐体外路症状はパーキンソニズムだけでなく、ジスキネジア、アカシジア、ジストニアなど様々な症状を含んだ概念ですから、パーキンソニズムの理解だけでは錐体外路症状の理解には不十分です。
ここではジスキネジア、アカシジア、ジストニア、パーキンソニズムの違いを解説します。この記事を読めば錐体外路症状がスッキリ理解できるでしょう。
ジスキネジアの解説
まずはじめにジスキネジアについて解説します。錐体外路症状を理解する上ではジスキネジアの理解が最重要です。ジスキネジアが一番難しく、ややこしいですが、これを理解できれば、錐体外路症状をほぼ理解できたと言えるでしょう。
ジスキネジアと口唇ジスキネジア
ジスキネジアとは大脳基底核の障害で出現すると考えられるおかしな動きの総称ですが、もともとはジスキネジアと言えば口唇ジスキネジアを意味していました。口唇ジスキネジアとは「繰り返し唇をすぼめる・舌を左右に動かす、口をもぐもぐさせる、口を突き出す、歯を食いしばる」などの症状です。
しかしその後、口唇ジスキネジアに伴い多くの動きを合併することが報告され、多くの動きを包括するものとして使われるようになりました。したがって、今では口唇ジスキネジアを含む多くの不随意運動を総称してジスキネジアと呼ぶことが一般的です。そしてこの広義のジスキネジアには後述するアカシジアやジストニアといった症状を含みます。
不随意運動の中には、バリスム、舞踏運動、ジストニア、チック、ミオクローヌス、振戦、下肢静止不能症候群、発作性ジスキネジア、アカシジア、遅発性ジスキネジアなどがあります。ジスキネジアの本態は、ジストニアだったり、舞踏運動だったり、ミオクローヌスの要素が入っていたりしますが、どの病態かを詳細に調べることができない場合も多いので、便宜的にジスキネジアと総称することが多いのです。
したがってジスキネジアと言ったときには、口唇ジスキネジアを意味する場合と、口唇ジスキネジアを含む多くの不随意運動を意味する場合があり、どちらを意味しているかは文脈によらなければ判断できず、ジスキネジアの理解を難しくする一因となっています。
ジスキネジアと遅発性ジスキネジア
医薬品の副作用として起こるジスキネジアは、ジスキネジアと遅発性ジスキネジアに分類されます。これもジスキネジアを理解しにくくしている要因のひとつです。
ジスキネジアも遅発性ジスキネジアも基本的な発生機序としては同じで、中枢ドパミン神経系である黒質線条体系神経路においてドパミンの働きが過剰になることで症状が現れます。ドパミン神経系については以下の記事を読んでいただけるとよく理解できると思います。
抗パーキンソン病薬を使用すると黒質線条体系においてドパミン量が過剰となり、ジスキネジアが現れます。これをジスキネジアと呼びます。
一方、遅延性ジスキネジアとは、抗精神病薬を使用したときに現れるジスキネジアです。抗精神病薬を長期使用すると、黒質線条体系においてドパミン受容体の感受性が過剰となり、ドパミンの働きが過剰になります。抗精神病薬によってドパミンを遮断するはずが、長期間の使用により逆にドパミンの働きが過剰になってしまうのです。このようにして現れるジスキネジアを遅発性ジスキネジアと呼びます。長期使用により症状が現れることから「遅発性」と呼ばれています。
したがって、ドパミンを補充しても、ドパミンを遮断してもジスキネジアが現れます。
アカシジアの解説
アカシジアは静座不能のことです。静座不能とは、じっと座っていられない症状です。「座ったままでいられない、じっとしていられない、下肢のむずむず感の自覚症状であり、下肢の絶え間ない動き」などが特徴的な症状です。また強い不安焦燥感や内的不隠があり、静止を強いられると内的不隠が増強します。
強い不安焦燥感や内的不隠という精神症状を有していることから、その発生機序も黒質線条体系と関連する他の錐体外路症状とは異なり、中脳辺縁系や中脳皮質系のドパミン遮断作用が原因のひとつとして想定されています。
ジストニアの解説
ジストニアは筋肉の持続的な収縮により生じる不随意運動のことです。姿勢異常や、全身あるいは身体の一部が捻れたり硬直、痙攣といった症状が現れます。黒質線条体系におけるドパミンの機能低下が一因と考えられています。
パーキンソニズムの解説
パーキンンソニズムとはパーキンソン病と同じような症状を示す病態であり、医薬品の副作用によりパーキンソン症状が現れるものを薬剤性パーキンソニズムと呼びます。この記事で単にパーキンソニズムと言った場合、薬剤性パーキンソニズムを意味します。
パーキンソニズムは黒質線条体系においてドパミンの働きが不足することで生じる病態です。症状は「動作が遅くなる、声が小さくなる、表情が少なくなる、歩き方がふらふらする、歩幅が狭くなる(小刻み歩行)、一歩目が出ない、手が震える、止まれず走り出すことがある、手足が固い」などです。
パーキンソン病の症状と比較すると、薬剤性パーキンソニズムの方が
・進行がはやい
・突進現象が少ない
・左右差は少なく、対称性の事が多い
・姿勢時、動作時振戦が出現しやすい
・ジスキネジア、アカシジアを伴う事が多い
・抗パーキンソン剤の効果が少ない
という特徴がありますが、絶対的なものではありません。
まとめ
錐体外路症状としてジスキネジア、アカシジア、ジストニア、パーキンソニズムの違い解説をしました。
理解の肝はやはりジスキネジアだと思います。文中のジスキネジアが口唇ジスキネジアを意味しているのか、広義のジスキネジアを意味しているのかを意識して読まないとこんがらがってしまうでしょう。
今後もぜひ、論文などを読む際にはジスキネジアが何を意味しているのかを意識していただきたいと思います。