薬剤師による調剤薬局の仕事解説

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P糖タンパク質って何?薬物相互作用にどう関係してる?

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P糖タンパク質とは一体なんでしょうか?

このように問われて、はっきりと回答できる人は少ないのではないかと思います。国家試験でなんとなく覚えただけであまり深く理解していない、そんな人が多いのではないでしょうか。

この記事ではP糖タンパク質について解説します。P糖タンパク質は薬物相互作用を考える上で、かなり重要な要素です。一番重要なのは間違いなくCYP(シトクロムP450)ですが、その次くらいに重要と言っても過言ではありません。



P糖タンパク質とは何か?

P糖タンパク質はトランスポーターの一種であり、薬物の体外への排出に関わっています。

トランスポーターはさまざまな臓器・組織の細胞膜上に発現しているタンパク質であり、生体内因子や薬物の細胞内外への輸送に関与しています。肝臓や腎臓などの消失臓器においてトランスポーターを介して排泄される薬物が数多く報告されており、トランスポーターはCYP(シトクロムP450)などの代謝酵素とともに薬物の主要な消失経路となっています。

P糖タンパク質はトランスポーターの中でも、ABC輸送体(ATP-binding cassette transporters)と呼ばれるグループに属しています。ABC輸送体とは、細胞内外へ基質を輸送するのにATPのエネルギーを直接利用するトランスポーターのことです。

P糖タンパク質の発現部位はさまざまですが、代表的な部位は小腸、肝臓、腎臓、血液脳関門です。発現部位はさまざまですが、薬物を体外に排出する、という役割は同じです。

それから、P糖タンパク質ががん細胞に発現することも重要です。P糖タンパク質ががん細胞に発現することで、抗がん剤ががん細胞の外に排出されます。つまりがん細胞が薬剤耐性を獲得するということです。P糖タンパク質はがん細胞の薬剤耐性獲得メカニズムのひとつとして注目されており、世界中で研究が進んでいます。


P糖タンパク質の別名

P糖タンパク質はいくつかの別名があります。呼び名が違うので混乱するかもしれませんが、すべてP糖タンパク質のことです。別名を以下に示します。

  • P-gp(P-glycoprotein)
  • MDR1(Multiple drug resistance 1)
  • ABCB1(ATP-binding Cassette Sub-family B Member 1)

P糖タンパク質の薬物相互作用

P糖タンパク質の代表的な基質、阻害薬、誘導薬を以下に示します。

基質

ジゴキシン(ジゴシン)、ダビガトラン(プラザキサ)、エドキサバン(リクシアナ)、リバーロキサバン(イグザレルト)、パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(タキソテール)など

阻害薬

イトラコナゾール(イトリゾール)、エリスロマイシン(エリスロシン)、ベラパミル(ワソラン)など

誘導薬

リファンピシン(リファジン)、カルバマゼピン(テグレトール)、セントジョーンズワートなど

解説

P糖タンパク質は基質認識性が広いのが特徴です。つまり多種類の薬物の排出に関与しているということです。多種類の薬物代謝に関与しているといえばCYP3A4ですが、CYP3A4基質とP糖タンパク質基質はオーバラップする部分が多いです。CYP3A4については以下の記事でまとめています。

CYP3A4基質とP糖タンパク質基質はオーバラップする部分が多いので、P糖タンパク質阻害、CYP3A4阻害それぞれによる相互作用の影響の分離評価は困難なことが多いです。そのため、P糖タンパク質を介した相互作用の評価は、非CYP3A4基質でP糖タンパク質基質のジゴキシンを被相互作用薬として検討されることがしばしばあります。P糖タンパク質基質の代表例としてジゴキシンが挙げられるのにはそのような事情があります。



臨床上問題になることが多いのは、ベラパミルによるP糖タンパク質阻害でしょう。ベラパミルは臨床での使用頻度が高いだけでなく、P糖タンパク質基質である、ジゴキシン、ダビガトラン、エドキサバン、リバーロキサバンなどとしばしば併用されます。これらはハイリスク薬であり、血中濃度に特に気をつけなければならない薬物です。

プラザキサの添付文書には以下のように記載されています。

薬剤名等
P-糖蛋白阻害剤(経口剤)(ベラパミル塩酸塩
臨床症状・措置方法
併用によりダビガトランの血中濃度が上昇することがあるため、本剤1回110mg1日2回投与を考慮すること。また、本剤と同時にベラパミル塩酸塩の併用を開始、もしくは本剤服用中に新たにベラパミル塩酸塩の併用を開始する場合は、併用開始から3日間はベラパミル塩酸塩服用の2時間以上前に本剤を服用させること。

同様にリクシアナの添付文書には以下のように記載されています。

体重60kgを超える患者のうち、次のいずれかに該当する患者には、30mgを1日1回経口投与すること。
(1)キニジン硫酸塩水和物、ベラパミル塩酸塩、エリスロマイシン、シクロスポリンの併用
(2)クレアチニンクリアランス30mL/min以上50mL/min以下

まとめ

この記事ではP糖タンパク質について解説しました。薬物相互作用に関わるトランスポーターはいくつかありますが、P糖タンパク質はその中で最も重要なもののひとつです。基質薬、阻害薬などについてこの記事で網羅できているわけではないので、この記事をきっかけにして、さらにP糖タンパク質について学んでいただければ幸いです。



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