すべての保険薬局は、妥結率の実績を毎年10月に地方厚生局へ報告する必要があります。報告がない場合は「妥結率が低い保険薬局」とみなされ、薬局経営上非常に不利になりますので、毎年必ず報告しましょう。
そもそも妥結率とは
妥結率とは、医療用医薬品の取引価格に関する妥結率のことで、卸と薬局の間での医薬品取引価格がどれくらい定まっているか示す数字です。
具体的には次の計算式で表されます。
①当該保険薬局において卸売販売業者から購入された薬価基準に収載されている医療用医薬品の薬価総額(各医療用医薬品の規格単位数量×薬価を合算したもの)
②卸売販売業者と当該保険薬局との間での取引価格が定められた薬価基準に収載されている医療用医薬品の薬価総額(各医療用医薬品の規格単位数量×薬価を合算したもの)
そんな数字、どの書類を見ればわかるの?と心配になるかもしれませんが、毎年10月になると卸が「価格妥結状況確認書」を作成して薬局に持ってきてくれます。価格妥結状況確認書の数字を足し合わせて報告するだけなので簡単です。
報告書はこちらからダウンロードできます。
ちなみに、数十店舗以上のチェーン薬局については
同一グループ内の保険薬局の処方せん受付回数の合計が1月に4万回を超えると判断されるグループに属する保険薬局については、保険薬局と卸売販売業者で取引価格の決定に係る契約書の写し等妥結率の根拠となる資料を添付すること。
という決まりがありますので、各卸からもらった価格妥結状況確認書を一緒に提出しないといけません。
その他、妥結率の報告に関して疑問がある方のためにQ&Aを載せておきます。
関東信越厚生局のホームページからの転載です。
質問 | 回答 |
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10月1日以降に新規指定となった保険医療機関等は、翌年10月31日まで妥結率の低い保険医療機関等としてみなされないこととなっているが、4月1日から9月30日までの新規指定については、どのように取り扱えば良いか。 | 4月1日に新規指定となった場合は、4月1日から9月30日の実績を10月に報告することになり、4月2日から9月30日に新規指定となった場合は、当該年度の報告は不要であり、翌年10月31日まで妥結率が低いとはみなされない。なお、来年度以降は報告が必要となることに留意すること。 |
4月から9月の妥結率を報告するにあたり、保険医療機関等が個人から法人に組織変更した場合や、保険医療機関が増床し、200床以上の保険医療機関になった場合の取扱いはどのようになるのか。 | 組織変更や増床以前の妥結率と以降の妥結率(4月から9月分)をまとめて報告する。なお、10月以降に増床した場合には、来年度以降の報告となる。 |
報告書への添付資料として、保険医療機関等と卸売販売業者で取引価格の決定に係る契約書の写し等、妥結率の根拠となる資料の提出が必要となるが、妥結率の根拠となる資料として、契約書の写しのみ添付すれば良いのか。 | 添付資料としては、契約書の写しのみで差し支えない。ただし、妥結率の根拠となる詳細な資料として、保険医療機関等と卸売販売業者が取引した医薬品の薬価総額とその内訳、そのうち妥結した品目と合計が分かる資料については、地方厚生(支)局等からの求めに応じて保険医療機関等は速やかに提出できるようにしておくこと。(詳細な資料は保険医療機関等で保管しなくても、求めに応じて取引先の卸売販売業者等から当該資料を速やかに入手して提出することでも差し支えない。) |
報告書への添付資料について、契約書の取交わしがない場合どのようにすればよいか。 | 例えば取引のある卸売販売業者ごとに、卸売販売業者と保険医療機関等の両者が押印により、妥結率の報告対象となる期間において価格が変更されることがない旨証明する書類をもって、契約書の写しに替えることができるものとする。 |
複数の保険医療機関等を開設している法人等において、卸売販売業者と当該本部又は本社が直接契約している場合、契約書の写し等妥結率の根拠となる資料の添付及び報告書に係る金額・妥結率の記載はどのようになるのか。 | 妥結率の報告は保険医療機関等ごとに行うものであり、妥結率は実際に保険医療機関等と卸売販売業者が取引(本部又は本社から調達したものを含む)した医薬品の価格、妥結状況から算出する。また、本部又は本社と卸売販売業者間での契約に係る資料も、保険医療機関等ごとの妥結率の状況が分かる資料であれば、妥結率の根拠となる資料として差し支えない。 |
公益的な側面から地域の備蓄拠点として機能している地区薬剤師会立の会営薬局との少量の取引においても、妥結率の根拠となる資料が必要となるか。 | 当該薬局と妥結率を報告する保険薬局間の取引に限り、薬価総額とそのうち妥結した総額を証明する書類(この場合は、妥結率を報告する保険薬局の押印のみで良いものとする)を添付することで差し支えない。ただし、当該薬局と妥結率を報告する保険薬局が取引した医薬品の薬価総額の内訳、そのうち妥結した品目と合計が分かる資料については、地方厚生(支)局等からの求めに応じて妥結率を報告する保険薬局は速やかに提出できるようにしておくこと。(詳細な資料は妥結率を報告する保険薬局で保管しなくても、求めに応じて取引先の会営薬局から当該資料を速やかに入手して提出することでも差し支えない。) |
妥結率の報告は何のため?
なぜ妥結率を報告する必要があるかというと、実勢価格が薬価改定に影響を与えるからです。
おおまかに言うと、次期薬価改定では薬価は実勢価格付近の価格に落ち着きます。ですから薬価を決めるために実勢価格を調査する必要があり、すべての保険薬局に妥結率を報告させているのです。
妥結率が低いと正確な実勢価格を知ることができず薬価改定に関する行政が滞るので、妥結率が低い(具体的には50%以下の)薬局にはペナルティが設定されています。
妥結率が低いとどんなデメリットがあるの?
妥結率は50%を超えていれば問題ありません。100%でも70%でも扱いは同じです。普通にやっていれば50%以下になることはまずありませんので、50%を超えるために薬局従業員が何かやるということもないです。
超えるべきハードルが低い分、妥結率50%以下の「妥結率が低い保険薬局」となったときのペナルティは厳しく、調剤基本料が減算されてしまいます。これを未妥結減算といいます。
調剤基本料は処方せん受付1回につき1回算定できるものです。現在の調剤基本料を下の表にまとめました。
区分 | 点数 | 要件 |
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調剤基本料1 | 41 | 調剤基本料2~5、特別調剤基本料に該当せず |
調剤基本料2 | 25 | 規定の受付回数、集中率に該当 |
調剤基本料3 | 20 | 規定のグループ枚数、集中率、賃貸借関係に該当 |
調剤基本料4 | 31 | 調剤基本料1の未妥結減算 |
調剤基本料5 | 19 | 調剤基本料2の未妥結減算 |
特別調剤基本料 | 15 | 調剤基本料3の未妥結減算、または調剤基本料未届 |
調剤基本料の詳しい解説はこちらをご覧ください。
ほとんどの薬局が調剤基本料1~3のどれかを算定しているはずです。
例えば、調剤基本料1を算定可能な薬局が未妥結減算のペナルティを受けた場合、調剤基本料が10点も減ってしまいます。
これが薬局の経営にどの程度影響を与えるか見てみましょう。
1カ月の処方せん受付回数が2,000回の薬局であれば、未妥結減算によって失われる利益は20万円。月20万円なので年間では240万円。
一方、日本政策金融公庫の「小企業の経営指標2016」によると、調剤薬局の従業者1人当たり粗付加価値額は年間568万円、従業者1人当たり人件費は年間509万5千円ですから、568万円-509万5千円=58万5千円となり、人件費以外経費ゼロだとしても従業員1人当たり営業利益は年間58万5千円です。
240万円÷58万5千円≒4ですから、未妥結減算による年間240万円の減益は、従業員4人が1年間働いて生み出した利益に等しい額です。つまり経営者の立場からすると、未妥結減算となるだけで従業員4人の働きが無駄になるくらいのインパクトがあるということです。