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薬剤師による調剤薬局の仕事解説

事務仕事から人材育成まで、調剤薬局の仕事すべてを管理薬剤師が解説します。

人員増加による労働生産性低下とコミュニケーションコスト

生産性

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薬局運営には従業員の確保が欠かせません。しかし世の中の多くの薬局が思うように従業員を確保できず、人手不足に悩んでいます。
従業員の確保さえできれば、おそらくその悩みは解決するでしょう。しかし一方で、従業員数が増えると必ず労働生産性は低下します。
ここでは労働生産性低下の原因である、コミュニケーションコストについて解説します。

労働生産性とは何か

まずはじめに、労働生産性とは何かということから始めましょう。
労働生産性とは、労働力1単位でどれだけの付加価値を産み出したかを示す指標です。計算式を見たほうが理解しやすいと思います。
計算式は以下の通り。

労働生産性=付加価値÷人件費*1

薬局の場合、付加価値は粗利益を指します。粗利益の計算式は次の通り。

粗利益=薬価差益+技術料

ですから薬局の労働生産性は次の式で表せます。

労働生産性=(薬価差益+技術料)÷人件費

労働生産性が高いほど、経営が安定した薬局と言えます。薬局の場合、労働生産性=1.5くらいが適正といえると思います。これを大きく下回っている薬局は経営が不安定ですので、粗利益増 or 人件費減の対策が必要でしょう。

人員が増えると労働生産性は必ず低下する

人員を増やすと当然、人件費が増加します。一方、人員が増えてもすぐに粗利益が増加するわけではありません。労働生産性=粗利益÷人件費ですから、労働生産性は必ず低下します。

その後、人員増加により待ち時間の減少、服薬指導の充実などプラスの影響が現れ薬局の評判が良くなることで処方せん応需枚数の増加、粗利益の増加をもたらすでしょう。こうして少しずつ労働生産性は回復していきます。

ではこの薬局はその後、人員増以前の労働生産性まで回復するでしょうか?
答えはほぼ間違いなくNOです。

どんなに処方せん応需枚数が増えようが、人員を増加すると労働生産性は必ず低下すると考えて、ほぼ間違いありません。

薬剤師1人で処方せん40枚をギリギリ処理していた薬局が、薬剤師2人に増えたからと言って処方せん80枚を処理できるようにはならないのです。

コミュニケーションコストが労働生産性を低下させる

なぜ人員増加でほぼ間違いなく労働生産性が低下するかというと、コミュニケーションコストが発生するからです。
コミュニケーションコストとは他人との情報共有に要するコストです。

先程の薬剤師1人から薬剤師2人に人員増加した薬局を例にとって考えてみましょう。

初期メンバーを薬剤師A、追加メンバーを薬剤師Bとします。
人員追加前、処方せん受付から投薬までは次のような流れでした。

処方入力(A)→調剤(A)→監査(A)→投薬(A)

処方入力、調剤、監査、服薬指導のすべてを薬剤師Aが行います。当然ですね。
この場合、他人との情報共有は不要ですからコミュニケーションコストは発生しません。

人員追加後は次のような流れになります。

処方入力(B)→調剤(A)→監査(B)→投薬(A)
処方入力(A)→調剤(B)→監査(A)→投薬(B)

処方入力、調剤、監査、投薬は調剤過誤防止の観点から薬剤師AとBが交互になるように行うと仮定しています。
この場合、処方入力→調剤→監査→投薬のすべての段階でコミュニケーションコストが発生します。

具体的なコミュニケーションコストの中身を見てみましょう。

処方入力→調剤のコミュニケーションコスト

処方入力を薬剤師A、調剤を薬剤師Bが行う場合を考えてみます。

薬剤師Aは処方せんを見てレセコンに処方入力を行います。申し送り事項の欄にGE○と入力されているのを見て、患者が後発医薬品を希望していることを理解し、後発医薬品に変換して処方入力を行いました。そして付箋に「GE○」と書いて処方せんに貼り付け、調剤担当者である薬剤師Bに処方せんを渡しました。

この場合、付箋に「GE○」と書いて処方せんに貼り付ける行為がコミュニケーションコストです。薬剤師Bに後発医薬品希望であることを伝えるため、付箋での情報共有が必要となっています。

調剤→監査のコミュニケーションコスト

調剤を薬剤師B、監査を薬剤師Aが行う場合を考えてみます。

薬剤師Bは処方せんと付箋を見て調剤を行います。
剤数が多いため調剤に少し時間がかかりそうです。そこで薬剤師Bは「ちょっと時間かかるから、先に他の処方入力やってて」と薬剤師Aに言いました。

この場合、「ちょっと時間かかるから、先に他の処方入力やってて」と言うのがコミュニケーションコストです。

監査→投薬のコミュニケーションコスト

監査を薬剤師A、投薬を薬剤師Bが行う場合を考えてみます。

薬剤師Aは監査を行います。監査中、併用薬との併用注意を発見し、「併用注意あるから、投薬で注意喚起してね」と薬剤師Bに言いました。

この場合、「併用注意あるから、服薬指導で注意喚起してね」と言うのがコミュニケーションコストです。

コミュニケーションコストは協働のあらゆる場面で発生する

ここまで見てきたように、処方入力→調剤→監査→投薬のすべての段階でコミュニケーションコストが発生します。

ひとりだけで働いていれば、すべての情報は自分の頭のなかにありますから、情報を自由に活用し、最も効率的なやり方で仕事をすることができます。しかし他人と協働すると、それぞれがバラバラの情報を持っていますから、情報活用のためにまずは情報を共有する必要が出てくるのです。そのための労力や時間がコミュニケーションコストです。

ひとつひとつのコミュニケーションコストは小さなものであっても、発生回数があまりに多いため、結果的にコミュニケーションコストが労働生産性低下を招いてしまうことになります。

他人と協働する上でコミュニケーションコストをゼロにすることは不可能ですが、小さくすることはできます。小さくするための方法は他の記事で紹介します。

*1:通常は労働生産性=付加価値÷従業員数です。ここでは話を簡単にするため労働生産性=付加価値÷人件費としています。

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