薬剤師による調剤薬局の仕事解説

事務仕事から人材育成まで、調剤薬局の仕事すべてを管理薬剤師が解説します。

何科の門前薬局が儲かるのかシミュレートしてみた

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みなさんの薬局はどのような立地でしょうか?最近では医療機関のそばに立地しない薬局も増えてきましたが、多くの薬局が医療機関の近隣に立地しその医療機関の処方せんを主に応需しています。

薬局の処方せん調剤を行うことで収入を得ていますから、近隣の医療機関の診療科が何かということは薬局の経営に直結する重要事項です。ここでは何科の医療機関の処方せんを受けることが薬局の経営上有利かということを考えてみましょう。



医療機関、診療科別の薬局収益を予想する

診療科ごとの処方せん単価、技術料、薬剤料などは厚生労働省が公表していますので、そのデータを元に考えてみましょう。処方せん応需枚数は月1,000枚、月1,500枚でシミュレートしてみます。

<計算のルール>
「調剤医療費(電算処理分)の動向~平成27年度版~」を元データとして利用する。
病院門前薬局は家賃月100万円、その他経費月40万円とする。
診療所門前薬局は家賃月20万円、その他経費月40万円とする。
月給(賞与含む)は管理薬剤師60万円、一般薬剤師45万円、医療事務25万円とする。
法定福利費は月給の15%とする。したがって、人件費=月給×1.15
薬価差益は15%とする。したがって、粗利益=技術料+薬剤料×0.15
総経費=人件費+家賃+その他経費
営業利益=粗利益-総経費
<処方せん応需枚数月1,000枚の場合>
病院門前薬局には管理薬剤師1人、一般薬剤師2人、医療事務1.5人を配置する。
診療所門前薬局には管理薬剤師1人、一般薬剤師1.5人、医療事務1人を配置する。
<処方せん応需枚数月1,500枚の場合>
病院門前薬局には管理薬剤師1人、一般薬剤師3.5人、医療事務2.5人を配置する。
診療所門前薬局には管理薬剤師1人、一般薬剤師2.5人、医療事務2人を配置する。

上記の条件で計算すると、下のような結果となります。

病院 診療所
大学
病院
公的
病院
法人
病院
個人
病院
内科 小児科 外科 整形外科 皮膚科 産婦人科 眼科 耳鼻科
処方せん1枚あたり(円)
技術料 2,471 2,534 2,521 2,419 2,435 1,948 2,316 1,826 1,824 1,873 1,290 1,883
薬剤料 26,346 18,081 10,960 8,339 6,652 2,269 5,662 3,917 2,752 3,645 2,710 2,605
粗利益 6,423 5,246 4,165 3,670 3,433 2,288 3,165 2,414 2,237 2,420 1,697 2,274
<処方せん応需枚数月1,000枚の場合>1ヶ月あたり(万円)
粗利益 642 525 417 367 343 229 317 241 223 242 170 227
総経費 356 356 356 356 235 235 235 235 235 235 235 235
営業利益 286 169 91 11 108 ▲6 82 6 ▲11 7 ▲65 ▲8
<処方せん応需枚数月1,500枚の場合>1ヶ月あたり(万円)
粗利益 963 788 626 551 515 344 476 362 336 363 255 341
総経費 462 462 462 462 316 316 316 316 316 316 316 316
営業利益 501 326 164 89 199 28 160 46 20 47 ▲61 25

この表から営業利益の部分だけ抜き出すと次のようになります。

病院 診療所
大学
病院
公的
病院
法人
病院
個人
病院
内科 小児科 外科 整形外科 皮膚科 産婦人科 眼科 耳鼻科
<処方せん応需枚数月1,000枚の場合>1ヶ月あたり(万円)
営業利益 286 169 91 11 108 ▲6 82 6 ▲11 7 ▲65 ▲8
<処方せん応需枚数月1,500枚の場合>1ヶ月あたり(万円)
営業利益 501 326 164 89 199 28 160 46 20 47 ▲61 25

処方せん1枚あたり

技術料について見てみると、各病院は約2,500円で横並びです。診療所では内科、外科は病院とほぼ同水準ですが、その他の診療科は低い水準となっており、特に眼科では1,290円と病院の約2分の1です。薬剤料は大きな差が出ました。大学病院は約26,000円である一方、小児科では約2,300円であり、約10倍の開きがあります。粗利益の高い順は薬剤料の高い順とほぼ同一であり、薬価差益を出せるか否かが薬局経営に大きな影響を与えることがわかります。

<処方せん応需枚数月1,000枚の場合>1ヶ月あたり

1ヶ月あたりの粗利益は、処方せん1枚あたりの粗利益×1,000です。総経費は家賃+人件費+その他経費で算出しており、病院門前薬局は家賃が高く、処方が重いため厚めの人員配置になると想定しています。営業利益は診療科によってかなり差が出ました。

安心して経営できそうなのは大学病院、公的病院、法人病院、内科、外科です。小児科、皮膚科、眼科、耳鼻科では赤字経営となるため、処方せん月1,000枚程度では経営していけないことがわかります。

<処方せん応需枚数月1,500枚の場合>1ヶ月あたり

処方せん枚数が増えると営業利益が増加することがわかります。粗利益の増加>総経費の増加 なので処方せん枚数1.5倍になると、営業利益は約2倍になります。それでも眼科では営業利益赤字となっています。また小児科、皮膚科、耳鼻科は営業利益黒字ではありますが黒字額が小さく安心して経営できるレベルではありません。


基準調剤加算、後発医薬品調剤体制加算が営業利益に与える影響

基準調剤加算や後発医薬品調剤体制加算を算定することで、営業利益にどの程度影響を与えるかみてみましょう。厚生労働省のデータによると調剤基本料の平均額は594円ですから、平均的な薬局は調剤基本料1、後発医薬品調剤体制加算1を算定しており、基準調剤加算を算定していないと理解できます。

410円(調剤基本料1)+180円(後発医薬品調剤体制加算1)=590円

基準調剤加算が営業利益に与える影響

平均的な薬局が基準調剤加算(32点)を算定できるようになると調剤基本料が+320円となりますから、処方せん月1,000枚、月1,500枚のとき営業利益はそれぞれ32万円、48万円増加します。

病院 診療所
大学
病院
公的
病院
法人
病院
個人
病院
内科 小児科 外科 整形外科 皮膚科 産婦人科 眼科 耳鼻科
<処方せん応需枚数月1,000枚の場合>1ヶ月あたり(万円)基準調剤加算○
営業利益 318 201 123 143 140 26 114 38 21 39 ▲33 24
<処方せん応需枚数月1,500枚の場合>1ヶ月あたり(万円)基準調剤加算○
営業利益 533 358 196 121 231 60 192 78 52 79 ▲29 57
小児科、皮膚科、耳鼻科のようなギリギリ黒字の薬局では営業利益が倍増しており、基準調剤加算の影響は非常に大きいといえます。安定した経営のためにはぜひ基準調剤加算を算定すべきでしょう。眼科は基準調剤加算を算定してもなお営業利益赤字となっており、眼科のみ応需する薬局の経営は非常にリスキーと言えます。

後発医薬品調剤体制加算が営業利益に与える影響

平均的な薬局が後発医薬品調剤体制加算2(22点)を算定できるようになると調剤基本料が+40円となります。増加額が小さく営業利益に与える影響は限定ですので、逆に平均的な薬局が後発医薬品調剤体制加算1(18点)を算定できなくなってしまった場合について考えてみましょう。

この場合、調剤基本料が▲180円となり、処方せん月1,000枚、月1,500枚のとき営業利益はそれぞれ18万円、27万円減少します。

病院 診療所
大学
病院
公的
病院
法人
病院
個人
病院
内科 小児科 外科 整形外科 皮膚科 産婦人科 眼科 耳鼻科
<処方せん応需枚数月1,000枚の場合>1ヶ月あたり(万円)後発医薬品調剤体制加算1✕
営業利益 268 151 73 93 90 ▲24 64 ▲12 ▲29 ▲11 ▲83 ▲26
<処方せん応需枚数月1,500枚の場合>1ヶ月あたり(万円)後発医薬品調剤体制加算1✕
営業利益 458 283 121 46 156 ▲15 117 3 ▲23 4 ▲104 ▲18
後発医薬品調剤体制加算1を算定できなくなると、多くの診療科で営業利益が赤字転落してしまうことがわかります。小児科、整形外科、皮膚科、産婦人科、眼科、耳鼻科では後発医薬品調剤体制加算1の死守が経営上どれほど重要かがわかります。

まとめ

薬局が儲かる診療科は大学病院、公的病院、法人病院、内科、外科です。これらの診療科では処方せんが月1,000枚程度あれば十分安定した経営をできると言えます。大学病院の目の前に薬局が何軒も並んでいるのも納得の結果です。

一方、それ以外の診療科では経営安定化のために基準調剤加算や後発医薬品調剤体制加算を算定するための努力が必須となってきます。眼科の門前薬局だけは儲からないので絶対にやめた方が良いと思います。



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