薬剤師による調剤薬局の仕事解説

事務仕事から人材育成まで、調剤薬局の仕事すべてを管理薬剤師が解説します。

薬剤師の処方せん上限は1日40枚

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薬剤師の処方せん処理枚数の上限が40枚であることは有名ですが、その具体的な計算方法について知っているでしょうか?例えば処方せん枚数と言っても、受付回数、取扱処方せん数のどちらが処方せん枚数として計算されるのでしょうか?計算途中で小数が出てきたら、どう処理すればよいのでしょうか?ここでは、知っているようで知らない、薬剤師の処方せん処理枚数の上限について解説します。



何の法律で決まっているの?

そもそも薬剤師の処方せん処理枚数の上限は、次の厚生労働省令によって規定されています。

薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令
(薬局の業務を行う体制)
二  当該薬局において、調剤に従事する薬剤師の員数が当該薬局における一日平均取扱処方箋数(前年における総取扱処方箋数(前年において取り扱つた眼科、耳鼻咽喉科及び歯科の処方箋の数にそれぞれ三分の二を乗じた数とその他の診療科の処方箋の数との合計数をいう。)を前年において業務を行つた日数で除して得た数とする。ただし、前年において業務を行つた期間がないか、又は三箇月未満である場合においては、推定によるものとする。)を四十で除して得た数(その数が一に満たないときは一とし、その数に一に満たない端数が生じたときは、その端数は一とする。)以上であること。

言い換えると、

①一日平均取扱処方せん数を算出しましょう。
②総取扱処方せん数(前年) ÷ 営業日数(前年) = 一日平均取扱処方せん数 です。ただし、眼科、耳鼻咽喉科、歯科の処方せんは2/3枚としてカウントします。
③一日平均取扱処方せん数 ÷ 40 = 必要薬剤師数(小数点以下切り上げ) です。

ということです。
表にするとこうなります。

一日平均取扱処方せん数 必要薬剤師数
〜40 1
41〜80 2
81〜120 3
121〜160 4

これで分かるとおり、処方せん処理枚数の上限とは受付回数ではなく、取扱処方せん数の上限です。一日平均受付回数が40回でも、一日平均取扱処方せん数が41枚以上であれば薬剤師は2人必要になります。

必要薬剤師数を計算してみる

例として、次の薬局で薬剤師を何人配置すればよいかを計算してみましょう。

前年の営業日数:200日
前年の取扱処方せん数:内科5,000枚、外科4,000枚、耳鼻咽喉科2,000枚、診療科不明3,000枚

まず、総取扱処方せん数を計算します。

耳鼻咽喉科が2,000枚ありますので、2/3で計算し、2,000×2/3=1,333.33333...=1,334枚
総取扱処方せん数は、5,000+4,000+1334+3,000=13,334枚となります。

計算上の注意点としては、診療科不明のものは2/3せずに計算することです。
眼科、耳鼻咽喉科、歯科を2/3することで小数となったときは、小数点以下を切り上げて整数とする場合と、小数点第二位を四捨五入して第一位までの小数とする場合があります。各保健所により方針が異なりますので、管轄の保健所に確認しましょう。(ここでは小数点以下を切り上げて整数としています)

一日平均取扱処方せん数は、13,334÷200=66.67枚

営業日数は薬局としての業務を行なった日数であり、たとえ1時間でも開局していれば営業日数1としてカウントします。また、結果として処方せんが来なかった日も営業日数1としてカウントします。

必要薬剤師数は、66.67÷40=1.66675=2人

必要薬剤師数は2人となりました。でも2人とは具体的に何の人数でしょうか?管理薬剤師1人と週15時間勤務のパート薬剤師1人の合計2人ということで良いのでしょうか?


常勤換算って何?

勤務薬剤師数は常勤換算で計算する決まりになっています。
常勤換算は、次の「薬局等の許可等に関する疑義について」に従って計算します。

薬局等の許可等に関する疑義について
1.薬剤師の員数の解釈について
「薬局及び一般販売業の薬剤師の員数を定める省令(昭和39年厚生省令第3号)」第1条に定める薬局の薬剤師の員数の算出方法については、今後以下のとおり取り扱われたい。
・常勤薬剤師(原則として薬局で定めた就業規則に基づく薬剤師の勤務時間(以下「薬局で定める勤務時間」という。)の全てを勤務する者であるが、1週間の薬局で定める勤務時間が32時間未満の場合は32時間以上勤務している者を常勤とする)を1とする。
・非常勤薬剤師は、その勤務時間を1週間の薬局で定める勤務時間により除した数とする。ただし、1遇間の薬局で定める勤務時間が32時間未満と定められている場合は、換算する分母は32時間とする。

例えば1週間の勤務時間が40時間と決められた薬局の場合、週15時間勤務のパート薬剤師は、15÷40=0.375となり常勤換算0.375です。
ですから先程の例で言うと、管理薬剤師1人とパート薬剤師1人で勤務薬剤師数は1+0.375=1.375=1.3人となります。
勤務薬剤師数の計算では、小数点第二位以下を切り捨てて、第一位までの小数とすることに注意しましょう。

1週間の勤務時間は各薬局自由に決めて良いですが、32時間未満の場合は計算上32時間を常勤の勤務時間とします。
ですから、1週間の勤務時間を20時間と決めて週20時間勤務のパート薬剤師を常勤として扱うようなズルはできません。

40枚が処理枚数上限だけど、実際上限ギリギリまで働くことはあるの?

私は管理薬剤師として薬局に勤務していますが、40枚制限の上限ギリギリでの勤務はけっこう大変だと思います。実際に、そんな上限ギリギリで勤務させられることなどあるのでしょうか。
試算してみます。簡単のため週単位で計算します。

薬局の営業が週6日、常勤薬剤師3人は週5日働いており、週あたりの取扱い処方せん数が720枚とします。一日平均取扱処方せん数は720÷6=120枚なので必要薬剤師数は3人。一人あたりの1日処理枚数は40枚で上限ギリギリです。
しかし、常勤薬剤師は週5日勤務なので、720÷3÷5=48枚となり、実際の1日あたりの処理枚数は48枚です。(逆に言うと1日48枚までは上限40枚を超えないということです。)

処方せん1枚あたりの処理時間は平均12分と言われていますので12×48=576分=9.6時間となり、1日9.6時間勤務しなければ処理しきれない計算となります。
1日9.6時間働くと1週間で9.6×5=48時間となり、労働基準法が定める勤務時間の上限1日8時間、週40時間を超えますから、まともな薬局であれば処理枚数の上限ギリギリで働かされることはないでしょう。
もし上限ギリギリで働かされている方がいたら、転職するか、対価として適正な賃金を要求すべきでしょう。

ただし、必要薬剤師数は「前年の」一日平均取扱処方せん数で決まりますから、前年は忙しかった薬局がクリニック移転により今年は暇という状態であれば必要薬剤師数の下限ギリギリしか配置しないというケースはあると思います。



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