薬剤師による調剤薬局の仕事解説

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逆流性食道炎の薬物治療、服薬指導の解説

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薬局では逆流性食道炎の患者を多く見ます。

逆流性食道炎は、読んで字のごとく、胃酸が逆流することで食道が炎症を起こす疾患ですが、なぜ胃酸が逆流するのか理解しているでしょうか?ピロリ菌を除菌すると逆流性食道炎が悪化することがあるのを知っているでしょうか?

ここでは、逆流性食道炎について解説します。病態や薬物治療への理解を深め、服薬指導に活かしていただければ幸いです。



逆流性食道炎のメカニズム

通常人体には胃酸が逆流しない仕組みが 備わっています。食道蠕動運動による胃酸の胃内への排出、嚥下された唾液による胃酸の中和などがその例ですが、最大の防御機構は下部食道括約筋(LES)です。

LESは食道の胃のつなぎ目(噴門部)に存在する筋肉であり、10〜20mgHgの圧(LES圧)で収縮することで噴門部を閉じ、胃酸の逆流を防いでいます。

普段は収縮しているLESですが、弛緩するタイミングがふたつあります。ひとつは食べ物を飲み込むとき、もうひとつは胃内の空気を食道側へ排出するとき(いわゆるゲップ)です。

胃内の空気を食道側へ排出するときのLESの弛緩を一過性LES弛緩といいます。そして、一過性LES弛緩に伴って胃酸が逆流することが逆流性食道炎の最大の原因です。

以前は収縮時のLES圧が低下すること(低LES圧)で胃酸逆流が発生すると考えられていましたが、最近の研究では胃酸逆流の原因の大部分は一過性LES弛緩によるものであり、低LES圧によるものはまれであることが明らかになっています。

ただし重症例では低LES圧による胃酸逆流も起こっていることがわかっています。


逆流性食道炎の薬物治療

逆流性食道炎は一過性LES弛緩に伴って胃酸が逆流することが原因ですので、一過性LES弛緩の抑制もしくは胃酸の抑制が治療方針となります。
実際には、薬物治療は胃酸抑制に焦点を当てたものがほとんどです。

プロトンポンプ阻害薬(PPI)

逆流性食道炎の第一選択薬はプロトンポンプ阻害薬(PPI)です。

逆流性食道炎の重症度は食道の酸曝露時間と逆流胃内容物のpHに相関します。したがってより強力かつ持続的な酸分泌抑制作用を有する薬剤が逆流性食道炎の治療に適しています。

ガイドラインでは、逆流性食道炎の初期治療において各PPI間での有意差はなかったと記載されていますが、PPIによっては8週間投与による治癒率がCYP2C19遺伝子多型の影響を受けるとも書かれています。PPIのうちCYP2C19遺伝子多型の影響を受けやすいはランソプラゾール(タケプロン)とオメプラゾール(オメプラール、オメプラゾン)ですから、これらの投与で効果不十分の場合にはCYP2C19遺伝子多型の影響を考慮すべきでしょう。

PPIは保険適応上、投与日数上限が適応症ごとに細かく決まっています。レセプト返戻、個別指導などで頻繁に狙われるポイントですので、投与日数と適応症をきちんと確認し、必要に応じて疑義照会を行うことが、薬局業務では重要です。

H2受容体拮抗薬(H2RA)

H2受容体拮抗薬(H2RA)は第一選択薬ではありません。

逆流性食道炎の原因となる一過性LES弛緩は食後2〜3時間以内に起こることが多いため、食後に十分な酸分泌抑制作用を発揮する薬剤であることが治療薬に求められる特性ですが、H2RAは就寝時に高い効果を発揮するものの、日中の効果は高くありません。したがってH2RAは逆流性食道炎の第一選択薬とはなりません。

しかしながら、常用量のPPIで効果不十分な場合に、就寝前にH2RAを追加投与することがあります。これは、nocturnal gastric acid breakthrough(NAB)の抑制効果を狙ったものです。

NABとはPPI投与中の夜間に胃内pH4未満となる時間を連続して 1 時間以上認める現象のことであり、NABがなぜ起こるかは不明であるものの、その対策にはH2RAの就寝前追加投与やPPIの1日2回投与が有効であることがわかっています。

アルギン酸塩(アルロイドG)

アルギン酸塩(アルロイドG)は胃酸の逆流を抑制することが証明されており、症状改善効果も認められています。

ただし服用回数が多いため、飲み忘れが発生しやすい場合には向きません。添付文書では1日3〜4回ですが、ガイドラインでは1日4回あるいはそれ以上の投与が必要、と記載されています。

制酸薬(酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウムなど)

制酸薬(酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウムなど)の投与は、自覚症状の改善効果が認められており、有用性が証明されています。酸中和薬であり作用発現は速やかである一方、投与後約30分で胃から排出されるため、効果の持続性がありません。

モサプリド(ガスモチン)、六君子湯、バクロフェン(ギャバロン、リオレサール)

モサプリド(ガスモチン)あるいは六君子湯をPPIと併用することで、上乗せ効果を期待できます。また、バクロフェン(ギャバロン、リオレサール)の追加投与により一部症例で症状改善が見られたという報告もあります。


逆流性食道炎の生活指導

一過性LES弛緩は生理現象であり、病的な現象ではありません。したがって一過性LES弛緩を止める必要はないのですが、生活習慣を改善することで一過性LES弛緩の頻度を下げることはできますので、患者に対してこの点を指導すると良いでしょう。

一過性LES弛緩はいわゆるゲップのことなので、ゲップの出やすい生活習慣を改めるというのが基本となります。

早食いを避ける

一過性LES弛緩は胃内の空気を食道側へ排出するための生理現象ですので、胃内の空気が多いと一過性LES弛緩が起こりやすくなります。早食いをすると食べ物と一緒に空気を飲み込んでしまうため、一過性LES弛緩が起こりやすくなります。

炭酸飲料を避ける

早食いを避けるのと同様の理由です。炭酸飲料を飲むことで胃内の空気量が増え、一過性LES弛緩が起こりやすくなります。

食べ過ぎを避ける

食べ過ぎて満腹になると、胃が伸展します。一過性LES弛緩は胃伸展状態で起こりやすいため、食べ過ぎは一過性LES弛緩を誘発します。

肥満を避ける

肥満になると腹囲の脂肪量が増えるため、腹圧が高くなりやすくなります。腹圧が高くなると、胃内の圧力も高くなりますので、一過性LES弛緩が起こりやすくなります。

前屈姿勢を避ける

前屈姿勢は腹部を圧迫し、腹圧を高めます。したがって前屈姿勢は一過性LES弛緩の原因となります。

高脂肪食を避ける

高脂肪食は十二指腸粘膜からのコレシストキニンというホルモンの分泌を促します。コレシストキニンは一過性LES弛緩を促す働きがあります。したがって高脂肪食は一過性LES弛緩を促進させます。また高脂肪食は胃排出速度を遅延させるため、胃伸展を引き起こしやすくなり、一過性LES弛緩の原因となります。

食べてすぐ横にならない

一過性LES弛緩は、その多くが食後2〜3時間以内に起こります。また、横になると胃酸が噴門部に達しやすくなります。したがって食後2〜3時間以内に横になると、胃酸が逆流しやすい状態のときに一過性LES弛緩が起こることになります。

横向きで寝るときは左側を下にする

左側を下にして寝る(左側臥位)はLES圧を高めるエビデンスがあります。

タバコ、アルコール、チョコレートを避ける

タバコ、アルコール、チョコレートは胃酸逆流症状を悪化させるとの報告があり、避けるべきとされています。

ピロリ菌と逆流性食道炎

ピロリ菌と逆流性食道炎 について解説します。

研究により、ピロリ菌感染例で逆流性食道炎の有病率が低いことが明らかになっています。なぜピロリ菌感染があると逆流食道炎になりにくいのでしょうか?

それは、ピロリ菌感染により胃酸分泌が低下するからです。ピロリ菌感染は萎縮性胃炎を引き起こし、萎縮性胃炎では胃酸酸分泌能が低下します。ピロリ菌感染は胃潰瘍、胃がんのリスクですが、逆流性食道炎では逆にピロリ菌除菌がリスクとなり得るのです。

では逆流性食道炎患者はピロリ菌を除菌すべきではないのでしょうか?

賛否両論ありますが、現在のところ、逆流性食道炎患者であってもピロリ菌除菌を行うべきと考えられています。除菌により発生、悪化する逆流性食道炎は一過性のものであり、重症化するのはまれです。

「H. pylori 感染の診断と治療のガイドライン 2009 改訂版」には次のように記載されています。

H. pylori 除菌後に逆流性食道炎の発症増加や症状増悪をほとんど認めないので、逆流性食道炎の存在が H. pylori除菌の妨げとはならない。
(中略)
我が国では、除菌後酸分泌が増加し一過性に逆流症状の出現や悪化、あるいは逆流性食道炎の増加が見られることが報告されている。しかし、一方で、消化性潰瘍患者に対して除菌を行っても、逆流性食道炎は増加しないという報告や十二指腸潰瘍を合併している逆流性食道炎ではむしろ食道炎が改善するという報告もあり、病態によっては、除菌が逆流性食道炎の発症を抑制する場合もあると考えられる。いずれにせよ、除菌成功後の逆流性食道炎の頻度は我が国においても除菌前よりもある程度高くなるものの、H. pylori 非感染者とほぼ同率となるだけであり、除菌後の逆流性食道炎を長期観察した場合でも、Los Angeles 分類の A, B の軽症者が大多数であり、重症化することはほとんどないと考えられる。また、消化性潰瘍患者に対しては逆流性食道炎による治療費の増加を考慮に入れても、除菌治療が従来療法よりも Cost-effective であり、逆流性食道炎の発生増加は除菌治療を行う妨げとならないと考えられる。
(後略)



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