薬剤師による調剤薬局の仕事解説

事務仕事から人材育成まで、調剤薬局の仕事すべてを管理薬剤師が解説します。

電子お薬手帳の算定要件についてのまとめ

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平成28年4月調剤報酬改定で、電子お薬手帳が一定の要件を満たすと、お薬手帳として認められることになりました。

まだまだ普及したとはいえない電子お薬手帳ですが、電子お薬手帳ユーザーが患者として薬局に来局するのは珍しいことではなくなってきています。

ここでは電子お薬手帳の算定要件について解説します。薬剤服用歴管理指導料が算定できないケースがありますので、算定要件を理解しておくことが大切です。



お薬手帳とは

まずはじめに、お薬手帳とは何かを示します。「調剤報酬点数表に関する事項」には次のように書かれています。

(10) 「手帳」とは、経時的に薬剤の記録が記入でき、かつ次のアからウまでに掲げる事項を記録する欄がある薬剤の記録用の手帳をいう。
ア 患者の氏名、生年月日、連絡先等患者に関する記録
イ 患者のアレルギー歴、副作用歴等薬物療法の基礎となる記録
ウ 患者の主な既往歴等疾患に関する記録
手帳の当該欄については、保険薬局において適切に記載されていることを確認するとともに、記載されていない場合には、患者に聴取の上記入するか、患者本人による記入を指導するなどして、手帳が有効に活用されるよう努める。
なお、手帳に初めて記載する保険薬局の場合には、保険薬局の名称、保険薬局又は保険薬剤師の連絡先等を記載すること。

上記の通り、お薬手帳は薬剤の記録を記入できるだけでなく、患者の既往歴、副作用歴などの情報を記録する欄があることが求められます。


電子お薬手帳の要件

電子お薬手帳であっても、紙のお薬手帳と同等の機能を有する場合には、お薬手帳としての要件を満たします。具体的には次の「調剤報酬点数表に関する事項」の内容をご覧ください。

(15) 電子版の手帳については、「お薬手帳(電子版)の運用上の留意事項について」(平成27年11月27日薬生総発第1127第4号)の「第三 運営事業者等が留意すべき事項」を満たした手帳であれば、紙媒体の手帳と同様の取扱いとする。その際、保険薬局においては、同通知の「第二 提供薬局等が留意すべき事項」を満たす必要がある。

電子お薬手帳の算定要件として、電子お薬手帳が満たすべき要件と、薬局が満たすべき要件があります。両方を満たして初めて、紙のお薬手帳と同様の取り扱いとなります。

電子お薬手帳が満たすべき要件

電子お薬手帳が満たすべき要件を確認してみましょう。長いですが引用します。

第三 運営事業者等が留意すべき事項
1 全般的事項
(1)お薬手帳サービスの開発や提供に当たり、提供薬局等が「第二 提供薬局等が留意すべき事項」を満たすことができるよう留意すること。
(2)利用者に対してお薬手帳サービスの利用方法等の説明が十分に行われるよう、運営事業者等は窓口の設置や問合せ先を明確にすること。
(3)提供薬局等が、服薬情報を記入し、情報提供等を行ったときに利用者がその内容を理解した旨を確認する機能を設けることが望ましいこと。
2 データ項目
(1)データ項目については、一般社団法人保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)により公表されている電子版お薬手帳データフォーマット仕様書(以下、「JAHIS標準フォーマット」)注)に従うこと。そのうち、「調剤年月日」、「薬品情報」、「用法情報」、「服薬情報」、「連絡・注意事項」、「要指導医薬品、一般用医薬品」、その他必要な項目を、お薬手帳サービスの項目として設けること。
注)平成 27 年 11 月 27 日現在 電子版お薬手帳データフォーマット仕様書Ver.2.0」が公開されている(http://www.jahis.jp/jahis_hyojyun/seiteizumi_hyojyun/
(2)お薬手帳サービスとして提供するかどうかにかかわらず、データの移行性を確保するため、別紙に掲げるデータ項目を備えていること。
3 データの提供
(1)現在のところQRコードで調剤情報を書き込めるサービスが多いこと、JAHIS標準フォーマットに対応したQRコード出力が可能な調剤レセプトコンピューターが多く販売されているという状況を踏まえ、利用者がどの薬局でも調剤情報を受け取れるよう、当面はQRコードによる情報の提供を基本とすることが適当であること。
(2)利用者の希望に応じて、秘匿したいデータは入力しない又は削除ができることについて利用者及び医療関係者が認識できるよう留意すること。
(3)利用者のプライバシー保護の観点から、利用者が閲覧者ごとに秘匿したい情報を選択できるようにすることが望ましいこと。その際は、医療関係者が情報が秘匿されていることを判別できるようにすることが望ましいこと。
4 データの閲覧
(1)お薬手帳サービスの閲覧範囲について規約等で明確にすること。サービス利用開始時に利用者から同意を取得する際には、閲覧可能な医療関係者の範囲等について十分に説明すること。
(2)過去の服薬情報などを適切に把握するため、最低1年分の服薬情報の一覧性(スマートフォン、パソコン等の一画面で服薬情報を特段の操作なく一覧できる仕組み)を確保し、その画面上において、基本情報(例:アレルギー歴、副作用歴等)とも相互に遷移するなど容易にアクセスできること。
(3)複数の運営事業者等が提供しているお薬手帳サービスの情報を含め、提供薬局等において一元的に情報閲覧できる仕組みの構築が必要であるが、その構築が実現された場合には、その仕組みを取り入れること。
(4)処方・調剤される医薬品の変更等を利用者、医療関係者ともに認識しやすいよう、調剤情報にマークが付くような機能を備えることが望ましいこと。
5 データの移行
(1)利用者が自由にお薬手帳サービスを選択できるよう、少なくともJAHIS標準フォーマットで規定されるデータ項目の移行ができるような書き出し、取り込みの機能を備えること。
(2)紙への切り替えを希望する利用者のため、印刷できる機能を設けるよう留意すること。
6 個人情報保護
(1)お薬手帳サービスを開発・提供する際には、個人情報、医療情報等に関する法令、ガイドライン等を随時把握し、遵守を徹底すること。また、データ項目のうち、個人情報保護の観点から取扱いに特に留意すべき機微な情報の取扱いは、情報漏えい対策を強化するとともに個人情報の保護に関する法律(平成 15年5月 30 日法律第 57 号。以下「個人情報保護法」という。)や医療等分野の番号等の議論等を踏まえ、随時適切に対応していくこと。
また、利用者に対して、お薬手帳サービス利用開始時等に個人情報の取扱いについて、分かりやすく伝えるとともに、提供薬局等に対しても十分説明すること。
(2)データとしてサーバー等に集積する場合は、利用者本人のみならず、処方した医師や調剤した薬剤師の個人情報が含まれていることに留意し、個人情報保護法やその関係法令を遵守すること。
(3)サーバー等に集積されたデータを第三者に提供する二次利用の範囲や、二次利用を可能にするデータ加工の方法等については、個人情報保護法及び医療等分野の番号等の今後の議論や運用等も踏まえて対応すべき課題であるが、当面の間は、データの利用前に関係者(利用者、医師、薬剤師等)とどのようにデータを利用するか等について合意がない限り利用すべきでないこと。
(参考)参照すべき法令、ガイドライン等(平成 27 年 11 月 27 日現在)
1.個人情報保護法及びその関係法令
2.ASP・SaaS における情報セキュリティ対策ガイドライン
3.ASP・SaaS 事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン
4.医療情報を受託管理する情報処理事業者における安全管理ガイドライン
5.医療情報を受託管理する情報処理事業者向けガイドライン
6.医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン
7.医療情報システムの安全管理に関するガイドライン
注)個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律(平成 27
年法律第 65 号)の施行により、上記の見直しが適宜行われることとなるため、今後の情報に留意すること。
7 関連サービスについて
(1)お薬手帳サービスにジェネリック医薬品や医薬品画像等の情報を付加する場合は、随時情報が更新されるような情報や複数の疾患に用いられるような医薬品情報等により、かえって利用者に混乱を生じさせることのないよう、これらの医薬品情報等の内容を把握するとともに提供方法に留意することが望ましいこと。
(2)お薬手帳サービスに服薬タイミングを知らせるアラーム機能や服用したことを記録する機能等の医薬品の服用をサポートする機能や運動や食事、喫煙/禁煙、血圧等の記録等医薬品に直接関連しない機能を備えている場合もあるが、このような機能を開発するにあたっては、地域医療情報連携ネットワーク等との連携や親和性等を考慮すること。
(3)疾患や医薬品に関する辞典機能を有するものについては、薬局や医療機関等が利用者に伝えた情報と異なる情報が記載されていることなどにより、利用者に疑問が生じてしまわないよう、その内容の妥当性を担保すること。さらに、医療に関するソフトウエアの一部(プログラムがデータを加工し、加工結果を診断・治療に使用するものなど)は医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和 35 年法律第 145 号)の対象とされることもあるため、関係法令を十分に把握し開発すること。

薬局職員として知っておくべき項目を赤くしています。赤い部分だけひとつずつ見てみます。

現在のところQRコードで調剤情報を書き込めるサービスが多いこと、JAHIS標準フォーマットに対応したQRコード出力が可能な調剤レセプトコンピューターが多く販売されているという状況を踏まえ、利用者がどの薬局でも調剤情報を受け取れるよう、当面はQRコードによる情報の提供を基本とすることが適当であること。

電子お薬手帳への調剤情報の提供はQRコードが基本です。しかし、必ずしもQRコードで提供する必要はありません。例えば日本調剤が提供している「お薬手帳プラス」では、日本調剤の薬局で調剤した場合、調剤情報は自動的に「お薬手帳プラス」に反映されます。これは日本調剤の薬局のレセコンと「お薬手帳プラス」が自動的に同期するようになっているためです。

過去の服薬情報などを適切に把握するため、最低1年分の服薬情報の一覧性(スマートフォン、パソコン等の一画面で服薬情報を特段の操作なく一覧できる仕組み)を確保し、その画面上において、基本情報(例:アレルギー歴、副作用歴等)とも相互に遷移するなど容易にアクセスできること。

最低1年分の服薬情報の一覧性を確保しなければなりません。これは電子お薬手帳の得意とするところですので、要件としては全く問題ないでしょう。

複数の運営事業者等が提供しているお薬手帳サービスの情報を含め、提供薬局等において一元的に情報閲覧できる仕組みの構築が必要であるが、その構築が実現された場合には、その仕組みを取り入れること。

「提供薬局等において一元的に情報閲覧できる仕組み」はすでに提供されています。日本薬剤師会が提供しているe薬Link(イークスリンク)という仕組みです。ですから、電子お薬手帳がお薬手帳としての要件を満たすためにはe薬Link(イークスリンク)に対応していなければなりません。

e薬Link(イークスリンク)に対応している場合、患者が電子お薬手帳でワンタイムコードを発行し、薬局がそのワンタイムコードを使って専用サーバーにアクセスすると、一時的に電子お薬手帳の記録を閲覧可能になります。

薬局が満たすべき要件

次に薬局が満たすべき要件を見てみましょう。

第二 提供薬局等が留意すべき事項
1 薬剤師等による利用者への説明お薬手帳の利用に当っては、薬剤師等が利用者に対してお薬手帳の意義、役割及び利用方法等について十分な説明を行い、理解を得た上で提供すること。
2 お薬手帳サービスの集約
(1)提供薬局等においては、利用者が一つのお薬手帳サービスを利用するよう促すこと。仮に利用者が複数のお薬手帳を利用している場合には、お薬手帳の持つ本来の意義及び役割が十分に生かされないため、一つのお薬手帳により服薬情報を把握できるようにすることが大切であることを説明し理解を得た上で、利用者が希望した一つのお薬手帳にまとめること。
(2)同じお薬手帳サービス内であっても、複数の識別子(ID)を付与することは、やむを得ず必要な場合に限られるべきであること。
3 データの提供方法
(1)利用者にお薬手帳サービスの利用を勧める場合には、利用者が閲覧に必要な機器等を保有しているか確認し、保有していない場合には、利用者が情報を把握できる方法(紙のお薬手帳等)で提供すること。
(2)提供薬局等は、利用者の求めに応じて少なくともQRコードにて情報を出力すること。 ※QRコードは、株式会社デンソーウェーブの登録商標
(3)利用者に情報を提供する際には、お薬手帳サービスの項目のうち、「調剤年月日」、「薬品情報」、「用法情報」、その他必要な情報を提供すること。
4 データの閲覧・書込
(1)お薬手帳の意義及び役割を利用者に十分説明し、薬剤師等の医療関係者が閲覧することについて同意を得ること。薬剤師等は情報を閲覧するごとに、利用者への口頭確認や利用者による携帯電話の操作又は携帯電話やサービス固有のカードの受け渡し等の動作により利用者から同意を得ることが望ましいこと。また、サービス利用開始時に利用者から同意を取得する際には、閲覧可能な医療関係者の範囲等について十分に説明すること。
(2)複数の運営事業者等が提供しているお薬手帳サービスの情報を含め、提供薬局等において一元的に情報閲覧できる仕組みの構築が必要であるが、その構築が実現された場合には、その仕組みを活用することが望ましいこと。
(3)処方・調剤される医薬品が変更された場合等には、利用者及び医療関係者が認識しやすいよう、注意事項欄に記載することが望ましいこと。
5 お薬手帳サービスの選択及びデータの移行
(1)提供薬局等の事情により、利用者のお薬手帳サービスの選択が制限されることのないよう留意すること。
(2)利用者が電子版から紙への変更を希望した場合は、必要な情報を記した紙のお薬手帳を交付するか利用者に手帳情報の印刷を促すなど、紙への切り替えを適切に実施すること。

赤字の部分を見ていきます。

提供薬局等は、利用者の求めに応じて少なくともQRコードにて情報を出力すること。

薬局は調剤情報をQRコードで出力できなければなりません。QRコードでの出力は必要条件です。

複数の運営事業者等が提供しているお薬手帳サービスの情報を含め、提供薬局等において一元的に情報閲覧できる仕組みの構築が必要であるが、その構築が実現された場合には、その仕組みを活用することが望ましいこと。

「提供薬局等において一元的に情報閲覧できる仕組み」はe薬Link(イークスリンク)のことです。e薬Link(イークスリンク)の活用が望ましいとされていますが義務ではありません。しかし、後述するように実質は義務です。

疑義解釈資料

電子お薬手帳について疑義解釈資料が出ていますので紹介します。

(問28)患者が電子版の手帳を持参してきたが、保険薬局が提携している電子版の手帳の運営事業者と患者が利用する電子版の手帳の運営事業者が異なる場合や運営事業者と提携していない保険薬局の場合など、薬剤師が薬局の電子機器等から患者の手帳の情報を閲覧できない場合はどのようになるのか。

(答)電子版の手帳については、「お薬手帳(電子版)の運用上の留意事項について」(平成27年11月27日薬生総発第1127第4号)の「第二 提供薬局等が留意すべき事項」の4(2)に規定する一元的に情報閲覧できる仕組みが公益社団法人日本薬剤師会より提供されているので(平成28年4月1日より)、当該仕組みの活用により、患者から手帳の情報が含まれる電子機器の画面を直接閲覧することなく情報把握することを原則とする。このような仕組みが活用できない保険薬局においては、受付窓口等で患者の保有する手帳情報が含まれる電子機器の画面を閲覧し、薬剤服用歴に必要情報を転記した場合に限り、薬剤服用歴管理指導料を算定可能とする。この際、患者の保有する電子機器を直接受け取って閲覧等を行おうとすることは、患者が当該電子機器を渡すことを望まない場合もあるので、慎重に対応すること。なお、このような方法で情報を閲覧等できない場合は、患者が手帳を持参していない場合の点数(50点)を算定するのではなく、薬剤服用歴管理指導料自体が算定できないことに留意すること。

日本薬剤師会より提供されている仕組み、つまりe薬Link(イークスリンク)を利用することを原則とされていますので、e薬Link(イークスリンク)の利用は義務と考えたほうが良いでしょう。

患者が算定要件をみたす電子お薬手帳を利用しているにもかかわらず、薬局でその情報を閲覧できない場合、薬剤服用歴管理指導料自体が算定できません。これは「電子お薬手帳を使っているけど、薬局にその情報を知られたくないから見せない」と患者に言われてしまった場合でも薬剤服用歴管理指導料自体が算定できないということです。ひどい話ですがそうなっています。



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